進化って何。

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あなたにひとつ問いを投げてみたい。「人はなぜ身近な人と恋に落ちるのか」。誰でも初恋の経験はあると思うけど、だいたい通っていたクラスの子だったりして、大人になってから旅行先のアメリカ人と初めて恋に落ちた、という話は聞かない。また、誰でも大好き、誰でもセックスカモーン、という人も珍しい。なんで?さあ、あなたの仮説は何だろうか。……解答、出ました?こういう、やや哲学的なニュアンスを含んだ問いかけについては人によって様々な考え方があって、きっとどれも間違いとは言えないと思うのだけど、進化学的な正解はこういうことになる。「たまたまそういうヤツの子孫が生き残るのに有利だったから」。数百万年前、3タイプの人類がいたとしよう。1つは「身近な人と恋に落ちる」。1つは「世界中を巡り歩いて自分に最もふさわしい伴侶をみつける」。1つは「誰かれ見境なくヤッてしまう」。どのタイプが子孫を残すのに有利だったか。2つ目のタイプは巡り歩くうちに死んでしまう可能性が高い。3つ目のタイプは優秀で健康な遺伝子を持つ相手を選べないから、ひ弱な子孫しか残せず結局は滅んでしまう。自分の子孫が永久に繁栄するために優秀で健康な伴侶を厳選しつつも、ある程度のところでドキューンと恋に落ちて「こいつだ!」となる。そういうヤツらこそが遺伝子を残すのに最も有利であり、その子孫がいまちょうど70億人いるわけだ。これが進化ということなのだ。
僕は進化心理学という心の進化に興味があって、それと広告コミュニケーションの関係についての 本 も書いた。ツイッターなどを見ていると、進化ということについての誤解が目立つ。たとえば「強い者、頭の良い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」という言葉が頻出する。これはある真理を突いた名言だと思うのだけど、ダーウィンの言葉ではない。進化とは何らかの意志を持って変わることではなく、「たまたま」変化したり、環境の変化が自分にフィットした者が「たまたま」生き残った、ということなのだ。「進化」という文字面を見ると「進んで変化する」というふうに読める。この漢字に問題があるのだと思う。
縁起でもないことだけど、もし放射性物質がとんでもなく拡がって、人間が住めないほど世界が汚染されたとしよう。しかし、おそらく人類の数パーセントは放射能に対して耐性がある。雌雄が存在するのは遺伝子組み合わせのバリエーションを無限に増やすことで、ウィルスや気候変動などの外部変化に対抗できる個体を用意しておこうということで、過去、ペストなどが蔓延しても数パーセントは必ず平気なヤツらがいた。 放射性物質についても耐性を持った人たちが少なからずいると思う。それはあなたかもしれない。放射性物質に汚染された世界で、少数の人類が生き残り、子孫を増やしていったとしたら、人類はそのように「進化」したこととなる。でもそれは「たまたま」であって、誰かの意志でそのように変化したわけではない。「進化」とはどういうことかが、少しおわかりいただけただろうか。