アビガンについて僕が報じてみる

Share Button

コミック「ブラックジャックによろしく」に「TS-1」という抗がん剤が登場します。
これは胃がんには「承認」されているが、膵がんには「未承認」という設定。
主人公はこの薬を膵がんの患者に使おうとします。
ここで問題が生じるのですが、それは何だと思います?
おそらく多くの方は、「未承認薬を使うのは違法では」と考えるでしょう。
違います。
厚労省の「承認」というのは保険適用の承認であって、保険適用しなければ、つまり10割自己負担するならば、未承認薬でも医師と患者の合意で使えるのです。
このコミックでそれを阻んでいたのは薬価でした。
抗がん剤には非常に高額なものもあり、自己負担だと月に数百万円にもなる、それを問題として採り上げていました。

アビガンの状況はこのTS-1とよく似ています。
インフルエンザについては承認されているが、新型コロナには未承認。
コミックと大きく異なるのは、アビガンの薬価は非常に安いだろうという点です。
まだ定まった薬価はないようですが、新型コロナに有効性が期待される抗HIV薬のカレトラは1錠約300円。
自己負担でも薬代が総額10万円を超えるとは思えません。
万を超えたとしても下の方じゃないでしょうか。
1ヶ月も入院すれば10万円や20万円、ICUに入ったりすればそれ以上の出費になりますから、それに比べてクリティカルな金額とは言えないでしょう。
保険適用承認が遅いとか騒がなくても、一般的な経済力のある人なら今にも使えるのです。

じゃあ承認のための治験とは何をやっているのか。
基本的には重篤な副作用が生じるかを調べるためのものです。
新型コロナの治療はインフルエンザの治療と状況が異なります。
治癒するまでの期間が長いのでそれだけ長期間投与しなければならないかもしれない、など、そういう環境でも副作用に変わりはないかを、いま確認しているわけです。
アビガンの副作用としては催奇形性の可能性が言われています。
妊婦が服用すると奇形児が生まれる恐れがある、ということですが、実際に生まれた事例はありません。
その「可能性がある」から、念のために妊婦には使わないようにしよう、ということです。
よく「催奇形性の副作用がある」と報道されていますが、副作用があるかどうかハッキリ断定はできません。
(下でも述べますが、悲しいことに報道機関の多くは一般人の僕よりも報道についての知見が下回っています)
また尿酸値が高まる傾向があるので、痛風持ちの人には慎重に使うなどの制約もあるものの、メリットデメリットを比べれば圧倒的に使用するメリットが高いと言えます。
感染症の医師が「もしあなたの母親が新型コロナに感染したら?」という質問に「100%、迷いなく投与します」と答えていたのが印象的でした。

ただ、通常であれば病院が製薬会社のMRに連絡して「持って来て」ですむところ、アビガンに関しては製薬会社の手を離れ国の管理に移っています。
そういう意味で、医師と言えども自由には使えないという事情はありました。

しかし、政府は3月に動きます。
アビガン、レムデシビル含む3剤を「観察研究」という枠組みで使って良し、と医療機関に伝達します。
観察研究は臨床検査法の規制に囚われないので、手続きや罰則のハードルが低く、病院がアビガンなどを最速のスピードで使うにはこれしかないということだったのでしょう。
とは言え流石に無理筋だろうと医療界は戸惑ったようです。
↓資料
アビガン投与が「観察研究」??
そして4月頭に安倍さんが「観察研究の仕組みでアビガン使用を拡大していく」と記者発表。
この時報じられたのは、「アビガンを200万人分用意する」でした。
安倍さんが「どんどん使ってほしい」と言ったのを、「承認されて200万人分用意されたらどんどん使って」と受け取ったのですが、これは間違いです。
超法規措置的に使えるようにしたので今すぐ使ってくれ、ということだったのですが、それが伝わることはありませんでした。

その後、この観察研究の手続きを経てアビガンを使用する病院は増えていき、いま現在では1000を越しています。
赤江珠代さんや石田純一さんが早期に投与されたのはその恩恵です。
ところがそのことはほとんど報道されません。
5月4日の「羽鳥慎一モーニングショー」ではレムデシビルが特例承認されアビガンが特例承認されない点について、岡田晴恵先生が「それについて私は以前からずっと言ってます」と発言しています。
早期投与できるようにずっと主張してきた、の意ですが、これは非常に罪の重い発言であると考えます。
政府が全く手をこまねいて無策であり自分はそれをずっと問題視してきた、といった印象を作り出していますが、それは逆で、政府自らが無理筋を冒してまで臨床現場に速やかに治療薬を届けようとしていたのが実際です。
おそらく岡田先生が早期投与を言い始める以前から。
また、アビガンが特例承認されるためには法令を変える必要がありますが、実際に現場でもう使っているのだからそんなことをやる必要もないし、やっている間に承認が下ります。
自分が思うにそれよりも大きな問題は、この番組を観ている視聴者に「アビガンまだ使えないんだ」という誤解を植え付けていることです。

病院にも、医師個人にも、大きなレベル差があります。
観察研究なんてやったことない、何のことかわからない、という病院もたくさんあるはずです。
また公立系や大学病院系は保険適用外の治療を自らはやりたがらない傾向もあります。
「患者が言い出さない限りは黙っておく方が面倒がない」と考える病院は少なくないでしょう、残念ながら。
(クライアントが言い出さない限りは黙っておく…余談ながら病院と広告エージェンシーは非常に共通点多いです)
だから、命を守るためには、患者が知識を持って「こういう治療はできないのか」と問いただすことが大事なのです。
病気の種類は違えども僕はそのような経験をしてきていますから、ここはハッキリ言うことができます。
主治医も「患者の希望」という錦の御旗があれば、病院の方針に反することができます。
その情報を与えるのが報道機関の役割なのに、真逆のことをやっているわけです。

日本での新型コロナによる死者数は現在492人。
かなり乱暴な試算ではありますけど、彼らの全てにアビガンが投与されて来なかったとします。
羽鳥慎一モーニングショーの最近の平均視聴率は約11%。
これはリアル視聴率であって、録画を含むともっと高くなります。
ざっくり、54人が羽鳥慎一モーニングショーを生放送で観ていたことになります。
アビガンを軽症者に使用した場合、重症化を防ぐ率は9割と言われています。
もし彼らがワイドショーから正しい知識を得て、アビガンの早期投与について医師を動かしていたら、48人が救われた計算です。

もちろん、この中には実際に投与された方もいらっしゃるでしょうし、こんな簡単なことでないのはわかっています。
しかし、「羽鳥慎一モーニングショー」を含め全てのワイドショーが正しい情報を与えていたならば、死者が格段に減っていた可能性は否定できないでしょう。
新型コロナのニュースは芸能人の不倫ニュースとは違います。
自分の思ったままペラペラと舌を回せばいいわけではない。
人の命が関わっているんですよ。
その重みについて自覚があるようには全く感じられません。
長嶋一茂氏が「まだまだワクチンが足りませんよね」と発言してましたが、明らかにワクチンと治療薬を混同しています。
ところが専門家も司会者もそれを訂正するどころかご高説頂戴しましたとばかりに「うん、うん」と頷いている始末。
誤解やいい加減な知識を正すどころか、そのまま垂れ流しているのです。

正しい報道がなされないために、国民の寸断も起きています。
アビガンについては「上級国民だけが投与されている」などというデマが拡散されました。
レムデシビルだけが特例承認されることについても、利権や外交圧力、官僚の保身を疑う人ばかりです。

番組の中で青木理氏はPCR検査が拡大されないことについて「政権は無能!」と吐き捨てていましたが、流石にこれは言い過ぎ。
日本感染症学会と日本感染環境学会の2学会が揃って軽症者へのPCR検査は行うべきでないとしています。
どういうことか、ちょっと僕なりの説明を試みます。

非感染者を陰性と判定する「特異度」というものがあります。
新型コロナのPCR検査は感染者を陽性と判断する「感度」が7割程度、とはよく言われますが、特異度についてはハッキリしません。
これを仮に99%として、実際の感染者が多い場合と少ない場合を比べてみましょう。
ここではわかりやすさのために日本の人口を1億人と設定します。
まず、1億人の1割が感染していたら、感染者1千万人の7割、700万人が陽性判定。
そして、感染していない9千万人の1%、90万人が偽陽性となります。
では、1億人の0.1%が感染していたら。
(日本ではこれまで約1万5千人が感染確認されていますが、実際に感染している人を多く見積もって10万人いるとしました)
この場合は、感染している10万人の7割で7万人が陽性判定。
感染していない9千9百90万人の1%、99万9千人が偽陽性となります。
並べて見ると、感染者がとんでもなく増えている場合、陽性:偽陽性の数は700万:90万ですが、感染者が少ない場合は7万:99万9千と、陽性者に対して偽陽性者の比率が膨れ上がるんです。

海外のように感染者が激増している場合は有効であっても、日本のように感染者がさほどでもない場合は、実際の感染者の数倍の労力と資源を非感染者に奪われることになってしまうので、大きなデメリットが生じます。
「PCR検査拡大が医療崩壊につながる」とはこのことです。
実際の特異度が99%より下がるにつれ、また実際の感染者数が少ないほど、この数は倍々で増えることになります。
厚労省はPCR検査を拡大していくと発表しましたが、何でもかんでもではなく「感染者が拡大傾向にある地域は」となっているのはこのような根拠によると思われます。
これを「無能!」と言い切っていいものでしょうか。
ここまで知った上で、日本の現状でもPCR検査を拡大すべしと言うのであれば、その理由を添えるべきでしょう。
知らなければ何の資格があってテレビに出ているのかその動機を疑います。
これではSNSのアベガーと何一つ変わりません。
国が何も考えていない、無策であるという印象を視聴者に与え、ただただ不信を植え付けるだけの発言になっているように自分には感じられます。

「報道の自由」が認められているからといって、何を言ってもいいわけではないでしょう。
地上波テレビは免許事業です。
一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
二  政治的に公平であること。
三  報道は事実をまげないですること。
四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
放送法第四条はテレビ局の義務を上のように定めていますが、どれ一つとして守られているでしょうか。

日本の報道機関が伝えないことを、僕が代わりに伝えてみました。