カンヌの妖力

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今年のカンヌの受賞作品をあらかた見た。日本勢で圧倒的に印象的だったのはProjectorの”Museum of me”かなあ。もしかすると僕の視点はズレてるかもしれないが。マスとネットの連携CMはどこに評価ポイントがあるのかわからない場合が多くて、悩ましい。
CM表現イッパツ的な、オールドスタイルで僕が最も楽しめたのは”Dads in briefs”だ。これはもう大好き。愛のレベル。嫉妬すら覚える。
http://www.youtube.com/watch?v=FwrZzk-45Jk

カンヌとか、海外賞のCMを観て、俺もああいう長尺の面白いのがやりたいやりたいやりたいと、セックスにあこがれる男子高校生みたいなフンガー状態になっているクリエイターは無数にいると思う。でも”Dads in briefs”のようなCMに本当に商品を売る力があるか、そこは計算できているのだろうか。僕らは観客ではなくプレイヤーなのだ。カンヌはプレイヤーをただの観客にしてしまう妖力がある。魔女サッキュバスのように、プロをセックス妄想やりたいやりたい男子にしてしまう。だからカンヌには用心しないといけない。
いわゆる面白CMは、商品の差別点を表現していない場合が多い。CMの中で、この商品は競合に比べてこの点が違っていて…と言い出すと、観る方はとたんにシラケてしまう。エアコンの広告なら、暑い夏にはこれ!ぐらいのところで表現を作った方が、シンプルで強いものになるわけだ。”Dads in briefs”も、商品の内容は何一つ語っていない。ここにCMの大いなる矛盾がある。
“Dads in briefs”のようなCMが成立するには、唯一の条件が必要だ。それは、その商品が、「競合よりも店頭販売力がある」ってこと。ここは重要なポイントなので若手クリエイターはぜひ覚えていてほしい。つまり他よりも安いってことだ。ほっといても店頭で勝てるのなら、差別点無視の面白CMは成立する。もしも商品が高ければ、結局、店頭で競合にひっくり返されてしまう。CMは無駄になる。
残念ながら、僕らが扱うのはメイド・イン・ジャパン製品ばかりで、高いのだ。日本製品はグローバルでも、もはや日本国内でも店頭で負け始めている。ロス市内の家電店でソニーのTVを置いているところはほとんどなく、マニア向けの店に限られるという。そのうち国内の量販店も中韓製品ばかりであふれかえるかもしれない。
コモディティ化が進みきった製品群の、僅かしかない差別点を最大に魅力化するという、野暮で理屈っぽい作業から僕らは当面逃げることはできないだろう。今のところ日本メーカーが生き残る道はそこしかないからだ。それでいてCMは強く、明るく、できるだけクレーマーの標的にならないように!という、ぜんぜん面白くない姿勢で臨まないといけない。でもそれがプロということだし、海外のクリエイターにはできないことだと思う。