コロナは「テーブルの呪縛」を解いた

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先日、「オンライン落語」なるものに招待されまして。
オンライン会議ツールを使って落語を楽しむというものなのですが、400人ほどが参加してました。
落語も楽しかったのですが、僕はそれ以外のことが気になっていました。
演目が終わってからフリーQ&Aの時間になり、参加者と師匠が「なぜ落語家を目指したのか」といった会話を交わしていたのですが、それを眺めながら僕は、「これって400人の会議だよなあ」と思ったんです。
400人がひとつのテーブルに座っているようなものだなと。

その瞬間、僕の頭から「テーブルの呪縛」が解かれました。

今まで、会議と言えば真っ先に脳裏に浮かぶものはテーブルでした。
その会議の規模、膝詰めの2人なのか、10人なのか、40人なのか、を決定づけていたのはテーブルの大きさと数です。
400人の会議が不可能だったのは、400人が同時に座れるテーブルが存在しないからと言えるでしょう。
オンライン会議はそのテーブルのない世界、あるいはそれぞれが自分のテーブルを持ち寄る世界です。
進んでいくと数百人の会議も普通になるかもしれない、と思ったわけです。

これは当たり前のようでいて、ものすごいパラダイム転換ですよ。
僕は、通販が店舗の「棚」という概念をなくしてしまったものに通ずると感じています。
棚の広さに制約がある世界では、店舗はその時その時の売れ筋を揃えられるかが勝負となります。
ちなみにTポイントやPONTAが普及したのはポイント解析による「棚」の最適化を加盟店に提供するビジネスだったから。

Amazonを初めとする通販は、いわばこれを逆手に取る戦略を取りました。
ロングテールです。
棚の広さという制約がないので、年に1つしか売れない商品も在庫に持てるわけです。
それらのチリツモがけっこうデカいと。
そして、ここを足場として、実店舗にはない通販ならではの強みを開拓し、どんどん盛っていきました。

会議からテーブルがなくなると、たとえば1000人相手のプレゼンテーションも可能になります。
企業相手のプレゼンでは聴く人はせいぜい20人以内が通常ですが、できるだけ全従業員に聴かせたい、というケースもあるかもしれません。
これまでそんなプレゼンを依頼されたことはありませんが、おそらくそこには1000人の会議なんて無理に決まってるというテーブルの呪縛もあったのでは。
企業にとって会議室は大きなコストです。
会議はできるだけ小さくやるのがコスパがよく、大人数でやる場合は貸し会議室を借りることになります。
しかし、そのコストはもう必要なく、むしろ、時間的コストを考えると100人などの大人数で一気に会議を開くのが常識化するかもしれません。

テーブルがなくなるということは、当然ながら距離の制約もなくなります。
現在、僕の仕事の中心は広告主とのアドバイザリー契約ですが、これまで地方企業は受けにくかった。
ほんの1時間打合せするだけでも、移動時間を合わせると丸1日かかってしまうので、なかなかペイしづらいからです。
もはやクライアントとの定例会議は一気にオンライン化しましたが、これであれば全国どこのお仕事も引き受けられます。
また、僕が主宰している広告学校も、首都圏に住む人じゃないとほぼ受講できませんでした(過去には地方から深夜バスで通う人も何人かいましたが)。
これもオンライン化すれば全国から応募が可能になります。

会議に臨む際の意識も変わるかもしれません。
テーブルにはそこに着く者の順位を決める作用があります。
上座・下座がありますし、メインの人物は真ん中、外野は端っことか後ろとか。
アーサー王のテーブルは逆に王と騎士との順位を決めない円卓。
これが、テーブルがなくなると、順位付けという意識もなくなります。
社長もワンオブゼムになってしまいます。
順位付けによって塞がれていた意見を吸い上げやすくなるのでは。
オンライン会議に参加していると、ビデオも音声もオフにして自分の気配を隠しながら参加する人いますけど、皆の視線に入らないようテーブルの端っこに座る感覚を引きずっているのでは。
そのあたりの意識変換をしないとオンラインのメリットを活かし切れない気がします。

オンライン会議ならではの強みは他にもいろいろ考えられます。
そのうちAIが実装されるでしょう。
オンライン面接ではすでに実施されていますが、AIが被験者の映像を分析して、知能の高さを測ったりするのです。
ディストピア的ではありますが…。
会議を重ねるごとに、AIが「リストラすべき順番はこの人とこの人」といった提言をするなどは今の技術ですぐできるはずです。
また、会議は情報交換であったりアイデアを出す場だったりしますが、オンライン会議は情報取得やブレーンストーミングをサポートするためのプラットフォームになり得ます。

FacebookがVRのOcculus社を買収したのは、たとえば東京とニューヨークのユーザーがテーブル越しに会話する、そのようなコミュニケーションの世界を実現するためと言われています。
しかしそこにはテーブルの呪縛が存在していました。
Facebookと言えど、会議、会話と言えばテーブル越しにやるもの、と思い込んでいたわけです。
100人の会話にVR空間は必然ではありません。
どうやら、彼らが思いもしなかった方向にコミュニケーションの世界は展開しようとしています。

では、なぜこれまでオンライン会議はさほどの普及を見せてこなかったのか?
これはテクノロジーの成熟度が絡んでいると思います。
Amazonはテクノロジストの会社と言われますが、その歴史はテクノロジー開発によって顧客のストレスをどんどん解消していった歴史でもあります。
瞬時にして読書できる電子書籍も、即日配達も、ストレスフリーを突き詰めた結果ですから。
オンライン会議も、Skypeなどのツールにはまだストレスがありました。
動画がカク付く、音声が途切れるなど。
それなら移動時間がかかろうと対面の方が気持ちよかった。
ところが、コロナ禍で皆が強制的にオンライン会議を立ち上げたところ、そのストレスがかなり解消されていることに気づいたわけです。
そのタイミングが偶然合致したんですね。
マルコム・グラッドウェル言うところの「Tipping point」がいきなり舞い降りた格好です。

テーブルの呪縛からの解放は、経済に大きなインパクトを与えます。
オフィスに会議室が必要なくなると、固定費の考え方が変わり、オフィスに求められる設計が変わり、あらゆる意味で不動産の世界を一変させるポテンシャルを持ちます。
また、商圏という概念にも影響を与えます。
僕がアドバイザリー契約をしている資格学校は、外出自粛への対応でオンライン化を進めたところ、かえって売上が急増しました。
全国の隅々から募集することが可能となり、説明会に参加する敷居も格段に下がるなど、対応のはずが進化になっていたのです。

コロナ禍の緊急事態宣言で、いろんな企業が「対応」を迫られました。
しかし、対応だけでは追いつきません。
これを奇貨とし、対応を超えた進化をしていく必要があります。
そしてそれは、テーブル呪縛に限らず、見渡せば他にも見つかっていくように思います。
新しい進化を見つけた企業が勝ち残っていくことになると思います。