不快な記事を読んでしまった。
「再生JALの心意気/さかもと未明(漫画家)(PHP Biz Online 衆知(Voice)) – Y!ニュース http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121119-00000002-voice-pol」
僕を不快にさせたのは、この記事の見出し。「飛行機の搭乗マナーは守られてる?」。赤ん坊を公共交通機関で泣かせるのはマナー違反だという主張だ。泣くなら乗せるな。乗せるなら航空会社は隔離室を設けろと筆者は言う。
記事を書いた漫画家も、サイトに載せたPHPも、広めたヤフージャパンも、「基地外」である。
いつからそんなものがマナーになった?
1ヶ月ほど前、大阪の北野高校総会で講演会をさせてもらった。行きも帰りも東海道新幹線はとても混んでいて、珍しくグリーン車も満席だった。帰りは2歳ぐらいの幼児を連れた母親と相席になった。僕が隣に座ろうとすると困ったような顔をした。きっと隣に誰も座らないことを期待してグリーン車に乗ったに違いない。そのうち子供が騒ぎ出し、周囲の目線を気にしてか、客室の外に連れて行ってしまった。僕はひとこと声をかけてあげればよかったなあと少し後悔した。しばらくすると戻って来たので「自分、ぜんぜん子供気にならないので。そちらも気にされることないですよ。うちもまだ一番下が三歳で」と言ってあげたら、表情がパッと晴れたようになって「いやもう、そう言っていただけただけでありがたいです」と安堵した顔になった。僕の席は窓際だったので、子供はこっちの方がいいでしょう代わりましょうかと言ったが、いやお気持ちだけでと固辞された。「ほんとうにありがとうございます。気持ちが救われました」と言い残して母子は名古屋で降りた。おそらく新幹線に乗るたびに周囲にびくびくしてたんだろうなと思い、何かいいことをした気分になった。
前回も書いたけども、日本の未来を救うのは子供を産み育てる母親なのである。彼女たちこそヒーローなのだ。公共交通機関で泣いている赤ちゃんや騒ぐ幼児がいたら、周囲の乗客は「ありがたやありがたや」と心の中で手を合わせるべきだ。そして、母親が萎縮しないようにこちらから気を遣ってあげ、できれば声をかけてあげるべきだ。それこそがマナーだろう。
大阪では人の本能をテーマにした講演をした。そこでも少し触れたのだけど、なぜ赤ちゃんは泣くのか。そしてなぜそれに大人たちは苛立つのか。その答えは簡単だ。赤ちゃんはここが現代社会であるとはわからない。アフリカのサバンナだと思っているのだ。天敵のヒョウが狙っている世界にいると信じているわけだ。だから、母親に対して常に救助信号を発信しようとする。いわゆる生存本能ってやつだ。かたや大人は自分が見ている世界と赤ちゃんが見ている世界が同じだと思っている。だから、なぜ意味もなく泣くんだ?と、その理不尽さにイラつく。
赤ちゃんが意味もなく泣くのにイラつくのなら、自分が意味もなく糖分を摂ったり、意味もなくセックスしたくなったり、意味もなく被災者を支援したくなったりすることにもイラつかなければおかしい。人間というものにイラつかなければおかしい。
赤ちゃんを泣かせるな、などという発想は人間否定に通じる。人間としての異常な感覚を肯定し、子を産み育てる母親をマナー違反などとして社会から排除しようとする、そんな主張を広めてどうしようというのか。PHPとヤフーに猛省を促したい。
赤ちゃんを泣かせろ
2012年11月20日