交通課の警察官に読んでほしい

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僕は下肢障害者です。
5年前に肉腫の大きな手術をしました。
その内容は、腹部から右脚にかけての筋肉切除、右そけい部の筋肉と皮膚の背中からの移植、右脚大動脈の人工血管化、右脚関節の人工骨頭置換、etc.というもので、右脚の動きはやや不自由になり、退院してから身体障害者手帳をいただきました。
幸いなことに車椅子を必要とするほどではなく、健常者ほどの速さではないものの杖一本で何とか歩けますし、自動車も運転できます。
ただ人工血管が詰まってしまったために、少し歩くと血流不足で右脚が痛んで来ます。
現実的に公共交通機関はほぼ利用できず、ほとんど自動車移動です。
そこでとても役に立っているのが制約がありつつも公道にクルマを停めることのできる歩行困難者用標章です。
僕は1日中あっちこっちへ打合せや編集で移動するので、これの恩恵で仕事ができているといっても過言ではありません。
近場に駐車場があればそこに停めますが、東京では目的地から離れないと駐車スペースが見つからないことが多いですから。

クルマを公道に停めるときは、非常に気を遣います。
道交法上の制約を守ることはもちろんとして、往来の迷惑にならないかどうか。
目的地になるべく近いところで、他のドライバーや歩行者の邪魔にならないポイントを探します。
問題はここからです。
時々、打合せ中に警官のケータイから電話がかかって呼び出されることがあります。
「苦情が来た」と。
クルマのところに行くと、幅広の道路でクルマの行き来もなく、どう見たって誰の迷惑にもなってなかったりするんです。
そこで必ず言われるのが、
「クルマを動かしてください」。
ここに停めると道交法違反になるんですか、と聞くと、ならないと。
「〇〇通りに停めたらどうですか」などと言われることもありますが、明らかにその場所よりも危険で、他のクルマの迷惑で、遠い場所だったりします。
なんでわざわざそんなところに移動させなきゃいけないのか、と問うと、
「苦情が来てますので」。
じゃあなぜ苦情の通報が行くのか、ですが、実のところは通報者が何らかの迷惑を被っているのではなくて、警察が放置車両の取り締まりをサボっていてけしからん、とか、客でもないのに店の前に停めやがって、とか、タクシー運転手がその場所に停められなくて腹が立った、とか、そういうものだろうということです。
そしてそういうクレーマーは執拗に110番するんですが、それでもそのたびに出動しないといけない決まりになっていて、警察官にとっては煩わしいというわけです。
実際、そのように説明されました。
あれは歩行困難者のクルマで道交法違反を冒しておらず取り締まりの対象になりませんって言えばいいじゃないか、とも思うんですが、そういう通報のほとんどは言いっぱなしで自分の連絡先は知らせないそうなのです。

確かに、そんな通報でいちいちチェックしに来ないといけない警察官も大変だなあと同情しますし、そんなことに関わっている間にもっと他の事件解決に時間を割くべきだよなあ、とも思います。
でも、制度の主旨から言えば本末転倒な指示であることは間違いないとも思うんです。
それで築地署に問い合わせました。
自分はどう考えるべきなのかと。
そしたら、
「それは警察官が間違っています。その指示に従って移動する必要はありません」
とキッパリ。
「通報のたびに出動するのは自分たちの義務なので、そのことを気にされる必要もありません」
と。
築地署ちょっと惚れそうになりました。

しかし僕にとっては呼び出されて打合せや作業が中断することがもうダメージなので、苦情の来ない場所、つまりはクレーマーのいない場所を探して停めるようになります。
しかししかしそこまで気を遣っても、やはり呼び出されることあるんですよね…。
つい先日も、クライアントの会社の前に停めていたら、会議中に呼び出されて。
その時はもはや犯罪者扱いです。
本当にこの会社で打ち合わせしていたのか、免許証見せろ、所属会社は、と職務質問のようなことをされたあげく、
「苦情が来たのでクルマ移動してください」。
道交法を守っているし何の迷惑にもなっていない以上、移動する義務はないはずだと抗弁したんですが、全く譲ってくれず。
ありがたいことにその会社の方が、次からはうちの役員駐車場を使えるようにしますからと申し出てくれたんですが、それでも頷かず。
そうこうしている時間がもったいないので、会議を10分で終えて移動するから、ということでようやく納得してくれました。
その会議はそれで台無しです。
所轄の中央署に後で電話して問い合わせたら、やはり、
「移動する義務はないです。そのことを交通課の署員に周知しておきます。申し訳ない」
という答でした。

で、僕が交通課の警察官に言いたいこと。
僕が「歩行困難者」の標章を持っている理由がおわかりでしょうか。
それは、「歩行困難」だからなんですよ!
いちいちクルマを停めた場所まで呼び出されていくのも、それはそれでキツいんです。
法を盾に取るつもりはないですよ。
どなたかの邪魔になっているのであれば「スミマセン!」と言ってすぐ移動します。
そうでもないのに他の遠い場所に停めろというのは、法の番人がこの制度の主旨と真逆のことをやってませんか。
障害者いじめではないですか。
仕事ならまだしも、クリニックで点滴を打っていたりすることもあるわけです。
そんな場合はどうするんでしょうか。
治療を止めて出て来いって言うんでしょうか。
通報が入るたびチェックしに来るのが煩わしい、という現場警察官の気持ちもわかります。
でも、あなた方は健常者で、パトカーやチャリで来るわけでしょう。
わざわざ遠い場所に停め直して、「歩行困難者」が遠い場所を歩き直すのと、どっちが煩わしくてしんどいことかよく考えてほしい。
これは警察官の立場からというよりも、自分のしていることが人としてどうなのか考えてほしい。

それと、意識を変えていただきたい。
僕は障害者が社会で活躍できるための活動をいくつかサポートしています。
自分自身も事例の一つですが、医療の進歩によって障害者として命を取り留める人が増えており、そういう人たちが働くことは日本にとってもその人の生きがいという意味でも良いことと考えるからです。
しかし、障害者の雇用はうまく進んでいるとは言えません。
障害者雇用促進法も改正され法定雇用率が引き上げられましたが、現在、多くの大企業でその雇用率を満たすことができず、身体障害者の取り合いになっています。
なぜか。
雇う側は、「この職場で何ができるか」と考えます。
でも障害者が働く上での最大のハードルは「通勤」なんです。
働く意欲があっても職場に通うことができない、という人がたくさんいらっしゃるんですよ。
顕著な例が視覚障害者。
僕と逆に、彼らはクルマの運転ができないので公共交通機関を利用します。
都心ならまだ整備されているのですが、地方だともうお手上げです。
そして障害者の移動には、物理的なハードルもありますが、心的なハードルもあります。
視覚障害者が移動中の心ないトラブルで引きこもることは少なくないです。
そうなるとその人はもはや社会に貢献できなくなります。
僕だって、何の違反も冒してないのに職務質問のようなことをされたり、クルマを移動するしないでもめたりすると、なんだか、
「おまえが街に出て来ると厄介だから家にいてくれ」
って言われてるような気分になるんですよ。
気持ちが落ちます。
一般の人たちは、たいてい優しいです。
気遣いを感じること多いです。
なのに、行政に携わる警察官が障害者をそんな心情に追い込むことが、どうなのかと。

いや、僕が街に出ることが迷惑なら、この場で引退したって構いません。
毎日コミック読んだりゲームしたりして過ごします。
ただね、僕は自分が経営している法人と個人併せてかなりの納税をしてます。
それを納めるのはできなくなるので、皆さんで僕を養ってもらうことになりますが、いいでしょうか。
意識を変えてほしいというのは、そういうことです。