渡辺直美のブタはいい企画になったかも

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東京オリパラの開会式演出案で、昨年3月、渡辺直美さんをブタにしてはどうか?というアイデアを佐々木宏さんがメンバーに打診したところ、
「容姿のことをそのように例えるのが気分良くないです」
「女性目線かもしれませんが、理解できません」
として却下されたと。
そして、そのやり取りをしたLINEグループがいま流出して問題になってます。

で、テレビのコメンテーターもコタツ記事も、SNSやブログもほぼ口を揃えて言っているのが、
「このアイデアはひどい、醜悪だ」
というもの。
「侮辱だ」
「昭和だ」
と。
そのLINEグループで
「目眩がするほどヤバい」
と投稿した男性メンバーもいたそうです。

イヤイヤイヤ…
ホントにそうか?
佐々木さんのアイデアはホントにダメか?
というか、僕は佐々木さんのアイデアを醜悪と決めつける全ての人に言いたいのだけど、このLINEグループの一言だけでクリエイティブを評価すんなよと。
佐々木さんの投稿だけを読んで即却下したメンバーたちの姿勢にも疑問を抱きます。
正しいクリエイティブ会議の姿勢は、

「じゃあどんなキャラクターになるのか見せてくれませんか?」

ですよ。

佐々木さんはLINEの冒頭で
「どう可愛く見せるか」
と言ってます。
それがまず大事だと。
渡辺さんをどう可愛く見せるかがキモで、たとえばブタにしたら?ってことですよね。
もし僕がその場にいたら、
「可愛く見せるのは確かにマストですよね。でもブタでどう可愛くなりますか?」
と聴き返したでしょう。
ワクワクしながら。
普通に考えれば、ただデブだからブタにするという安易なアイデアだな、として流しそう。
でも佐々木宏ですよ?
そこを逆手にとって、
「面白い!」
「可愛い!」
と観客や視聴者が絶賛するキャラクターに仕上げる可能性大ですよ。
してやったり、ウッシッシと。
そこらの駆け出しクリエイターとは違いますからね。

渡辺直美さんはこの案で打診があっても断ると言ってますが、それは半分嘘では。
そう言わざるを得なかったわけで、実際はキャラクターの出来次第でしょう。
僕は以前花王ヘルシアのCDをやらせてもらっていたとき、タレントの藤原竜也さんを「ヘルシアの精」というキャラクターにしました。
ヘルシアを家庭に常備してもらおうという狙いで、妖精である藤原さんが勝手に家庭に上がり込んで冷蔵庫をヘルシアで埋めるというCMを作ったんです。
僕が最初にそのアイデアを口にしたとき、メンバーは
「藤原さんがそんなことやるわけない」
と言いました。
クライアントは口をあんぐりしてました。
確かに、僕のイメージは愛/地球博のモリゾーみたいなものだったのだけど、さすがにそれでは即座に断られそう。
ヘタに事務所に見せるとすごい反発をされて、不審を抱かれるリスクを伴う。
そこで、藤原さんのスタイリストに連絡を取ってどういうキャラなら藤原さん的にOKか?というギリを探ったんです。
最終的には木の葉でできたスーツをファッショナブルに仕上げてもらって、藤原さんのカッコよさも損なうことなく着地できました。
渡辺さんだって、これならOK!という着地点は絶対にあったはずです。
最初から吉本に
「渡辺さんをブタにしたいんですが」
なんて持って行くわけがない。
「こういうキャラにしたいんですが」
と見せて、それが
「これならうちの直美がグローバルで存在感アップやな!」
と喜んでもらえる魅力的なものならば、
「もしかしてうちの直美を侮辱してます?」
なんて話になりようがない。

ソフトバンクの白い犬は、上戸彩さんなどの多忙なタレントが撮影日と合わないときの対策として、スケジュールの問題がないキャラクターを持っておく必要がある、といった狙いから出てきたと聞きました。
これも最初は誰かの
「お父さんを犬にしたら」
というジャストアイデアから始まったものかもしれません。
もしその犬が首輪をつけて犬小屋に住んでたら、父親を飼い犬扱いか!と大きな反発があっただろうと思います。
でも北大路欣也さんの声を当てたことで、そういうものをピョーンと飛び越えたわけです。
佐々木さんならブタでも蔑視とか何とかをピョーンと飛び越えるキャラクターに仕上げたかもしれない。
もちろんダメダメかもしれませんよ?
でも何の検証もしないままに却下するのはクリエイティブの姿勢ではないと言いたいのです。
そこに乗っかって醜悪なアイデアだと批判している有象無象の人たちはトーシロ。
トーシロを指す英語で”Scrub”というのがありますけど、手を洗ってるみたいにコントローラーをガチャガチャやってるだけ、ってところから来てます。
ホントにガチャガチャとScrubだなあと。

人をブタに例えるってことだけで言うと、イスラムの人たちにどう見えるか、といったことは問題になりそう。
しかし、そんなことは最初は気にしなくていいんです。
渡辺直美さんのブタキャラを進めている途中でそういう事情が入ってきてNGになったとしても、
「ブタがダメならこうしたら?」
と、そこからさらに魅力的になる可能性は大いにあります。
広告クリエイターはいろんな制約の中で作業しますが、制約はアイデアの母だったりしますので。
事情や制約でアイデアがおじゃんになるのではなく、そこからかえって良くなった、ということを僕らは何度も経験してます。

去年3月の時点では佐々木さんはまだリーダーではありませんでした。
だからメンバーの一人としてアイデアを出すというポジションに甘んじていたのでしょうけど、もし僕がさらに上の、全体の人事ができる立場だったとしたら、佐々木さんを叱責したりはしません。
逆です。
むしろ、そういうアイデアの種をろくに検証することもなく却下するメンバーの方を外しにかかるでしょう。
こんなことでは優れたアイデアが醸成されていかないので。
佐々木さんをヘッドに据えて、会議がスタックするのではなく、広がっていくような体制にしようと考えるはず。
コロナ禍で人が密になるマスゲームはNGとなり、それまでの演出案は使えなくなって、延長に伴うさらに厳しい条件でどうカタチにするか、となったとき、いよいよ組織委員会は断崖絶壁に追い込まれたでしょう。
そこで佐々木さんに全てを託し、彼の足を引っ張る者がいない、やりやすい体制に一新しようとしたのなら、それは非常に理解できる判断です。
もし電通がそのように動いたとしたら、それはScrubがガチャガチャ言っているような利益誘導ではないですよ。
数億や数十億のために電通がそんなリスクを冒すわけがない。
確実にカタチにするためにリスクヘッジをしたのではないかと想像します。