どうやれば民進党は勝てたか

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広告業界では、広告の扱いを受注するためにしばしばコンペ(競合プレゼン)が行われます。
各エージェンシーの提案を見て、最も優れた企画を出したところに仕事を発注しようということですね。
ただ、その「優れた」というのがくせ者で、いったいクライアントが何を基準に優劣を決めるのかはとても曖昧。
多くの場合は、自分たちのイメージ通りのものかどうかです。
なのでコンペとは言っても、純粋なフリーハンドの提案を見るというよりも、自分たちの考え方通りにやってくれるか確認するという意味合いが大きく、「全く想定外の提案だがこれがいいと思った」となるケースは稀少と言えるでしょう。

そんな中、エージェンシーの営業さんがよく口にする言葉は、
「獲らなきゃ始まらない」
です。
クライアントのオリエンテーション(ブリーフィングとも言います)自体に疑問を持つことはよくあります。
そこから疑い自分たちの信念に基づいて、こういうコミュニケーション設計の方がいいんじゃないですか、と率直な提案をする方がクライアントのためになると思うのですが、上記のようにそれだとコンペを獲る確率は下がります。
それよりもクライアントの顔色を伺って、何を望んでいるのかを突き止め、それを「提案」として出してほしいと営業さんは僕のようなクリエイティブディレクターに要望するわけです。
それは100%正しいこととは思わないけども、半分以上は頷けます。
獲らないとゼロ。
参加すらできませんから。
だから僕はバランスを考えて、クライアントが許容できるギリを攻めたりするわけですが、選挙戦もこれに似たところがあるように感じます。
いくら正論をかざしたところで有権者の心を動かし自分たちの議席を増やすことができなければ、結局政治に参加することはできません。
ゼロです。
できもしないいい加減な公約を言ったり嘘をつくわけにはいきませんので、党の理念と有権者の要求のグッドバランスを見つけること以外に勝ち筋は存在しません。

ここからはある種の思考ゲームになりますが、では、たとえば民進党の場合はどうやれば議席数を伸ばせたのか、自分なりにシミュレーションしてみました。

まず根本的なポイント。
民進党に限らずですが、負けた政党は「争点」を作るのがヘタだった。
てか、争点を作ることすらしなかった。
小泉政権時代、「改革を止めるな。」というスローガンがありましたね。
あれはコピーライティングとしてはものすごく秀逸です。
自民党の改革を進めるのか、止めるのか、そこが選挙の争点だ、と言っているのです。
そうすると郵政改革の中身がどうの、とは違う次元で戦えることになります。
また、「抵抗勢力」という言葉もうまかった。
小泉派が時代のメインストリームで、それ以外は時代の流れを邪魔する人たちということにされてしまいました。
今回の参院選で、各党は総花的に公約を羅列するだけでしたが、それは戦略的に褒められたものではありません。
弱者の戦略と呼ばれるランチェスター戦略でも弱者は一点突破するしかない、となっており、そのセオリーは企業の戦いにも政党の戦いにも通用します。

ではどこを争点化するのか。
経済政策か。
それは違う気がします。
まず、有権者の多くは経済のメカニズムを理解できません。
アベノミクスが正しいかどうかなど、経済学者でも論が分かれるところで、自分たちの政策が正しいのだといくら叫んでも納得感に至らせるのは困難でしょう。
それに、日本の経済が弱くなった根本的要因は少子高齢化などの構造的なところにあると思っている人は多いでしょう。
また、原油安やBRICSの成長減速、ヨーロッパの不安定など外部要因に揺さぶられる部分も大きいわけで、
「この乱気流の中を安倍政権はよく持ちこたえている」
と評価する人も少なくないはずです。

経済政策じゃなければ、憲法改正ということになります。
が、民進党はそもそも党論が護憲か改憲かハッキリしていません。
また共産党と手を結ぶことでさらにポジションをややこしくしています。
そうなると、普通に考えるのは、
「ここは触れないでおこう」。
でもそれが最大の過ちなのです。
ネガをポジ化できるように整理した上で、そこをバーンと掲げて勝負に出るところに一筋の光明があるのです。

じゃあ、憲法9条の改正を争点化するのか。
そこも僕は違う気がします。
戦争したくない、は国民の望みです。
でも、それと9条改正とは別、と考える国民も多いはずです。
尖閣諸島について、日本が侵略したのか、中国が侵略してきてるのか、を問うた時、ほとんどの日本人が後者と答えるでしょう。
トランプ氏の躍進で日米同盟の未来も不確かになっている中、これ以上中国や北朝鮮、韓国など周辺諸国になめられないためにも少しマッチョな姿勢を見せた方がかえって戦争にならない、という理屈はたやすく反論できるものではありません。

僕なら、自民党の痛点を探します。
「そこを突かれると痛いんだー!」
ってツボですね。
それはおそらく、憲法改正案の11条~13条、とりわけ13条かなと。
自民党改正案では、国民の基本的人権よりも国益優先となっているんですね。
まるで全体主義国家の憲法のようですが、ここ、気づいている国民は少ないと思いますよ。
極端に言えば、
「ここに道路通すから、あんたの家立ち退きね」
と言われても反対できないってこと。
国益優先を憲法が保障しちゃってるんですから。
これは、ほぼどんな人も「それはイヤだ」と感じるはず。
だから僕ならここを争点化します。
「あなたの権利を奪わせるな。」
といったスローガンを作るかもしれません。
もっと扇情的にするなら、
「中国化憲法」
といった言葉を作るかも。
シニア世代になるほど中国への嫌悪感は強いはずなので。
「中国化憲法に、断固反対する!」
と言えば多くの有権者の心をグラグラ揺らすことはできます。
「戦争法案」といった言葉よりよほど強いでしょう。

誤解のないように言いますが、僕は民進党支持者でも自民党支持者でもありません。
その時々によって、納得できる政策を示してくれる党に票を投じるだけです。
ただあまりにもコミュニケーションが稚拙だと、きっと政策実務も稚拙なんだろうなと思ってしまいます。
おそらく他の有権者も少なからず同じではないかと。
信じることをそのままぶつける、有権者に問う、という姿勢も素晴らしいですが、その一方、
「獲らなきゃ始まらない」
という厳然とした事実もあります。
ビジネスはしたたかさが評価される世界でもありますから、とりわけビジネスマンたちには「うまいことやったな」という知能を評価するところもあるでしょうし。

まあとにかく、昨今の選挙戦はコミュニケーションのプロ的には「見ちゃいられない」レベルなので、もうちょっと感心させてほしいです。
知と知がぶつかりあってるな、という様相だと、どちらに任せても安心感ありますので。