軍隊メガネ

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初めての業界案件を担当すると、「えっ、そうだったんだ!」というサプライズ知識を得ることが多い。それが広告業の楽しみの一つでもある。最近メガネスーパーのクリエイティブをやらせてもらって、メガネについて「えっ、そうだったんだ!」を得た。これはメガネをかけて仕事している人にとって有益な知識だと思うので、ここで披露してみたい。
そもそも、「視力」とは何か。
僕は子供の頃2.0の視力を誇っていた。高校3年の頃、はしかで1ヶ月高熱が続いたせいで一時的に0.1ぐらいにまで落ちたが、徐々に回復して、現在は1.0と0.8ぐらいだ。運転免許は裸眼で通る。その話をすると、近視の人は例外なく「えーいいなー」と言う。日本人は遠くがよく見えるほど良い眼である、という思い込みを持っている。きっと子どもの頃から今に至る健康診断でそれが刷り込まれてきたのだろうが、それはどれほど意味のあることなのだろうか。だって、僕らは何メートルも先を見て仕事したりしない。PCのディスプレイと眼の距離は1メートルもない。よく考えてみると、現代人にとって何メートルも先の小さいものが判別できることに、価値があるのか。

昔、徴兵検査時に、視力はとても重視された。今でもそうかもしれないが、パイロットは視力が悪いとなれなかった。空中戦では敵機を先に見つけた方が圧倒的に有利だから。レーダーがない時代では、海戦もまた哨戒番の視力に頼るしかなかった。歩兵に求められたものも、遠くの的を判別できる能力だった。裸眼視力0.6未満の者は兵隊になれなかった。ちなみに0.6という数字は運転免許に必要とされる視力と同じだ。
今の学校制度は明治に森有礼という人が創り出したものだが、それは軍隊の仕組みを流用したものだった。40人というクラスの基本人数は、陸軍の1個小隊と同じ。前へならえ、休め、という動作も陸軍から拝借した。そして、健康診断時の視力測定も徴兵時の検査方式を持って来たのだと思われる。
問題は、多くのメガネ店が、いまだにその発想でレンズを作っていることだ。だいたい5メートル先でピントが合うように作るらしい。しかし前述したように、僕らは5メートル先を見て仕事したりはしない。遠くでピントが合うレンズで近くを見ながら仕事するとどうなるかというと、眼筋をずっと収縮させ続けないといけない。つまり疲れ目である。そしてそれが眼精疲労となり、体調全体が悪くなる。慢性疲労、肩こり、頭痛、etc.。
メガネ店が置いているレンズには、明確に大きな差はない。HOYAなどレンズメーカーのOEMだからだ。大きな差があるのは、検査方法なのだ。
視力だけ測定してレンズを作るやり方は、戦前の徴兵のやり方と変わらない。旧日本軍でなく現代企業に勤めているのなら、現代のやり方でレンズを作るべきだろう。
メガネスーパーは、その人の視力に、仕事環境、年齢による眼筋の衰え、まで調べてレンズを作る。これは時間のかかる非効率的なやり方である。しかし、そうすることで疲れないメガネができる。JINSなどは斬新なメガネを提案しているイメージがあるが、検査方法は非常に簡略されたもののようだ。せっかくメガネを作っても、眼が疲れるので作り直したい、と他店に行く人が多いらしい。
メガネスーパーのCMはレンズをフィーチャーしているが、その方がCMとして届くスピードが速いと計算したから。本当のUSP、優位性は、検査の丁寧さ、確実さにある。
メガネをかけて仕事している人で眼や身体の具合が良くないと感じている人は、マッサージに行ったり、サプリや薬を飲んだりするよりも、メガネを作り直す方が効果が高いかもしれない。