炎上チェックライターという新職種

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最近、CMやWEBムービーが、とにかく炎上します。
社会が複雑化する中で、誤解を招くメッセージを企業が思わず発してしまう、といったケースがどんどん増えて来ています。
そういう意味で僕がずーっと気になっているCMがあります。
「ガイアの夜明け」の枠でオンエアしているこの富士通のCM。
https://www.youtube.com/watch?v=x3cRGccfY-U
トンマナはとてもヒューマンで、その街の足としてずっと働いて来たタクシー運転手さんが、子どもの飛び出しを事前に察知して事故を防ぐ。
そういった経験スキルを、これからはICT技術でみんなで共有できるよ、といった主旨。
でもこれ、見方によってはとても恐ろしい内容のCMとなります。
どういうことかというと、コツコツと磨いてきた職人の技を、これからはテクノロジーで全て奪い取ってやるぞ、という宣言になっていると言うこと。
「すごーい!でも、これからは、運転手さんに代わってICTが飛び出しの多い場所だけでなく、便利でお得な情報を知らせてくれたりするそうです」と台詞で言ってますが、これでは、まさにテクノロジーによる弱者排除を加速する企業と受け取られても仕方ないです。
僕はこのCMを見た後、小さい女の子が将来データサイエンティストになり大成功を収め、そのパーティの帰り、富裕層の住む住宅地の一角でゴミ箱を漁っている元運転手と再会し、「あれ、あなたはいつも私を送ってくれたあの…」といったストーリーを妄想してしまいました。
もちろん、富士通がそんな非人間的な会社であるわけはないのに。

どこに問題があるのか?
それは、「運転手さんに代わって」です。
これが、「運転手さんを見習って」なら問題ないんです。
わかりますか?
その一言の違いで、「人間性排除」じゃなく「人間性共存」企業になれるんです。
僕がこのCMのCDなら、そこに気づいた瞬間、再編集を進言します。
あの女の子もそんな高価なタレントじゃなさそうだし、ちょっと呼んでそこだけ台詞録り直せば済むこと。
オフナレだからリップの問題もないし、2~3時間の作業。
このCMが問題にならずに済んでいる理由は、企業の真意を視聴者が理解しているから、といった性善説的なものではないと思います。
言っている内容が難しくて、CMの内容を理解できる人が少ないからです。
つまり運が良かっただけ。
これは、ほんの一例です。
「うわこのCM、大丈夫かね」とこっちがハラハラするもの、時々見ます。

こないだ、あるPR会社から僕にちょっと前例のない依頼がありました。
それは、PRの文言が炎上しないかチェックしてほしいというもの。
そのクライアントは目下社会的にかなりのバッシングを受けている最中でもあり…ほんのちょっとしたものの言い方も間違えられない、という話でした。
もちろん引き受けましたが、この依頼を僕の所に持って来たのは賢明と言えましょう。

大きな企業では、広告やPRを弁護士チェックにかけたりします。
ところがそこでどういうチェックが返ってくるかというと、
「妻という文字はもともと箒を持って家の前を掃除していたというところから来ているので差別用語とされる恐れがある」
とか、そういうのだったりします(これ、本当の話ですよ!)。
僕は、
「じゃあ、サッカーは古代に敵兵の首を転がしたところから始まったという話なので、非人道的行為に当たりますね」
と言ってやりましたが。
危ないものは全てNG、というやり方ならもちろん問題にはならないでしょう。
でもそれでは大事な真意が何も伝わらない、という本末転倒になってしまいます。
そこをうまくできるのはやはりコピーライターかなと思います。

ほんのちょっとした言葉のミスで、意図せずともそれが差別になったり、人権侵害になったりする、難しい世の中です。
コピーライターにも、炎上チェックライターという、新しい役割が生まれるかもしれません。