ウィルス飛沫99%カット(?)

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あちこちの薬局でマスクが品切れとのニュースです。
日本ではそんなに大勢の人がコロナウィルス肺炎を発症していませんので、その大半は咳エチケットではなく予防したい人たちが買っているのでしょう。
市販のマスクにウィルスを予防することなどできないのに、です。

厚労省の新型インフルエンザ専門家会議はこのように言っています。
「不織布(ふしょくふ)製マスクのフィルターに環境中のウイルスを含んだ飛沫がある程度は捕捉されるが、感染していない健康な人が、不織布製マ スクを着用することで飛沫を完全に吸い込まないようにすることは出来ない。」
感染者が飛沫の範囲を狭めるためにマスクをするのは一定の効果を認めるものの、その逆、健康者が感染を防ぐための効果はほぼない、というのが厚労省のスタンスで、これは医療従事者の共通認識になっていると言えるでしょう。

もしかするとあなたは、
「いやいや病院に行けばお医者さんたちマスクしてるじゃん」
と思うかもしれません。
もしそれが市販のマスクなら、たぶん、「お通夜の喪服」みたいなものでしょう。
お通夜に喪服を着ていくのは失礼に当たるのだって知ってました?
それだと死を待ち構えてたことになるので、お通夜には私服で行って、こんなに急だとは…と言うのが礼儀なんです。
ところが実際に私服でお通夜に行こうものなら、無知な人々の群れからなんだこの失礼なヤツはという目で睨まれます(何度かそういう目に遭いました)。
エージェンシーの「ご提案」もそうですね。
立場が下の者が提案するときは「提案差し上げます」などと言うべきで、立場が上の者が提案してきたら「御社のご提案」となるのですが、広告業界では「私どものご提案としましては…」がデフォルトです。
クライアントが無知だと何だこの失礼なヤツらはと思われてしまうので「ご提案」になるわけです。
このように正しい知識があっても周りの無知に合わせないといけないケースは多々あります。
医師も、マスク付けとけば患者も安心するだろう的な動機で付けている人が多いと思われます。

またあなたは、
「でもマスクのパッケージにウィルス飛沫99%カットって書いてるぞ」
と言うかもしれません。
そこなんです、僕が非常に気になっているのは。
その99%カットの根拠は、そのメーカーが行った試験結果です。
具体的な文言としては、以下のようになっています。
「0.1μmの微粒子・花粉。ウィルス飛沫を99%カット(フィルター性能)。特殊静電フィルターが花粉・ウィルス飛沫はもちろん、0.1μmの微粒子もカット。」
僕が気になるのは、なぜ、
「0.1μmの微粒子・花粉・ウィルス飛沫を」
ではなく、
「0.1μmの微粒子・花粉。ウィルス飛沫を」
と分けているのか?です。
また、
「花粉・ウィルス飛沫はもちろん、0.1μmの微粒子もカット。」
と、花粉・ウィルス飛沫と0.1μmの微粒子を別物にしてますよね。

アメリカ合衆国労働安全衛生研究所が規定しているマスクの性能は、N95だと0.1~0.3μmの微粒子を95%カット、N99だと99%、N100だとほぼ100%となっていて、厚労省もN95と同レベルのDS2という規格を定めています。
これらはもともと粉塵予防に用いられるもので、建設現場などでマスクを使用するときはこの規格のものを使うべしと法律で定められています。
これがウィルスにも効果あるのでは?として、N95規格以上のマスクは医療現場にも拡がっています。
上記のマスクメーカーは、これに倣った表現をしているのだと思います。
おれらのマスクはN99レベルやで、と。
しかしそれなら、なぜストレートに
「0.1μmの微粒子・花粉・ウィルス飛沫を99%カット(フィルター性能)。特殊静電フィルターが花粉・ウィルス飛沫含む0.1μmの微粒子をカット。」
と言わないのか。
素朴な答は、ウィルスを99%カットするデータはない、ということになります。
だからそこは濁しているのだろうと。

いやもしかすると、逆かもしれません。
メーカーは99%ウィルスをカットできると自信満々なのに、そういう表現を消費者庁が許さなかったので、曖昧にせざるを得なかった。
消費者庁はなぜかハッキリさせるのを好みません。
あらゆるものを曖昧にするのです。

消費者庁は名前のごとく、消費者の利益を守るために存在しているはずだけど、結果として何も守っていないように自分には感じられます。
たとえば飲むものは全身に影響するはずだから、どこか身体の一部に効くと言ってはならない、とか。
だからグルコサミンが関節にいいとは言えない。
サプリメーカーは屈伸している様子をCMで見せたりして、口には出せないけどわかってくれ…!とアピールするわけです。
ジェスチャーゲームみたいなものですよ。
「えーっと、ペンギン?ペンギン?違う? それは…水?あっ、お茶?合ってる? わかった、カトちゃん!カトちゃんね?」
ところがそういう表現も「✕」にされていって、今ではただ突っ立てるだけのジェスチャーゲームです。
何にも伝えられない。

花王ヘルシアは「脂肪を燃焼させる」と言っていたのが、「実際に燃焼させるわけではない」という指導が入って、その言葉は使えないことに。
実際燃焼したらファイアパンチだろ!

実際に燃焼しないから「比喩表現なんだな」と思ってもらえるわけで。
「いくら飲んでもファイアパンチにならないぞ」とクレームが入ったという話は聞きません。
ドラッグストアに行くといろんなサプリや健康食品が並んでますが、どれが何に効くのかわかりません。
その状況がなぜ消費者の利益になるのか、僕には理解できないのです。

マスクに話を戻しますと、友人の医療者曰く、健康者がマスクを付けることで感染に対する意識を高める効果はあるのではないか、それによって人混みに近づかないようになる、手洗いを徹底するといった間接的効果はあるのでは、と。
しかし僕は逆を案じます。
マスクを付けることで実際以上の大丈夫感で、平気で人混みに行ってウィルスをもらいまくることにもなりかねないではないですか。
グルコサミンが全身に効くのに消費者が膝にだけ効くと誤解したって、カテキンが実際に脂肪を燃やすのだと誤解したって、メガシャキの「メガ」がメーカーが主張するように「MEGA」という単位ではなく「眼が」なんだなと誤解したって、たいして消費者の利益は損ないませんよ。
それよりも、効果のないマスクに頼ってウィルスをバンバンもらいまくるとか、買い占めで本当に必要としている人に届かないとか、あるいは逆に効果があるのに医療従事者は「ない」と認識してしまっていて彼らが命を落とすことになるとか、そっちの方が比較にならないぐらい大きな問題でしょう。
厚労省の認識が正しいのか、メーカーの試験結果の方が信頼できるのか、曖昧にしないで、消費者の利益のためにここでハッキリさせてほしいと思う次第です。