三菱自動車が補償すべきもの

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先週WBSを観ていたら、燃費偽装問題で三菱自動車が補償すべき範囲のことが語られていました。
いわく、まず、ユーザーが期待していたガソリン代として1台あたり5~10万円を払わないといけない。
それにお詫び金。
エコカー減税の対象外となった場合の返還金。
日産への賠償金。
全て足し合わせると、最大1500億円ぐらいだろうと。

そこまで聞いて僕はちょっと突っ込みたくなりました。
おいおい、肝心なものが抜けてませんかと。

少し古いマーケティング用語に”Competitive edge”というものがあります。
「ちょっとの差が勝敗の全てを決める」という概念で、たとえば、他が全く同じ条件の自動車があるとして、一方は燃費20km/l、一方は19km/lなら、だれでも前者を購入するだろう、わずか1km/lの差で一方は利益の全てを得ることができ一方は1銭も得られない、という考え方です。
これは古典的経済学に則ったもので、現実的には二つの自動車が燃費以外全く同じということはないわけで、デザインであったり、運動性であったり、安全性、細々した機能、メーカーの信頼性、ディーラーのセールスマンの好感度、様々な要因によって人々は購入を決定します。
また、人の心理には不可解な部分が多いですから、もし燃費以外同一条件のクルマが並んでいたとしても、あえて燃費の悪い方を選ぶ人もいるかもしれません。
今のマーケティングはそういった行動経済学に則って考えられています。

しかし、「原則は原則」です。

今回の不正でダメージを被ったのは、ユーザー、日産、だけでなく、偽りの燃費表示によってセールスのチャンスを奪われた競合メーカーも含まれるはずです。
彼らがどれだけ利益を失したか、それを算出するのはなかなか困難でしょう。
でも、その補償までやらなければ禊にはならないと思うのです。
世界のほとんど、少なくとも日本の経済は「競争」に基づいて成り立っています。
そしてその競争は、「嘘をつかない」というルールの上に成り立っています。
もしも企業が公表するスペックについて生活者が「嘘かもしれない」と疑い始めたら、競争経済は成立しなくなり、カオスに突入してしまいます。
極端かもしれませんが、フォルクスワーゲンや三菱自動車の不正は、いま我々の社会を支えている経済の土台を揺るがす行為と言っても過言ではないわけで、なぜ経済学方面からそのようなツッコミが出て来ないのか自分には不思議です。

記者会見で三菱自動車の社長さんは、手元の資金が4千億あるから補償は問題なくできると胸を張っていましたが、その大部分は上記で述べた他メーカーが得ていたはずのお金かもしれません。
過去のリコール隠しでは三菱グループ全体で”Buy Mitsubishi”といったインナーキャンペーンを展開し、身内の援助でコトを収めてきました。
しかし三菱グループの中には経済の原理原則について僕以上に明知に富んだ方は多くいらっしゃるはず。
今回の問題はリコール隠しとは次元の異なるものとして、重く受け止めてほしいものです。