「元ネタ」と「コピペ」の線引き

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たとえばクリエイターが、このような商品、あるいはその画像をどこかで見たとします。

 

 

 

 

 

それで、何かビビッと来るものがあった。
おそらくそれは、
「生き物とか何か物体の、端っこと端っこだけが見えてるのって可愛いな」
ってことでしょう。
これを「元ネタ」としてデザインするとしたら、どこまでが「パクリ」「コピペ」で許されず、どこからが「モチーフ」「オマージュ」として許されるのでしょうか。

たとえば黒い猫を白い犬に入れ替えたら?
「別のもの」として権利関係の問題はクリアできるかもしれません。
でもクリエイターとしては恥ずかしい。
上記の写真は「La merise」という実在するブランド商品のものであり、その販売を妨害するおそれがあるわけで、確信犯としてやるのは職業倫理的に許されません。
では、ドラゴンだったら?
ファンタジーの生物であり、魅力的に感じる人たちの層も違って来そう。
犬よりはずいぶんいい。
でも、まだギリギリ気になるところ。
じゃあホースならどうだ。
たとえばホースで水巻きしようとしている画があって、もう一つの画はホースの元が蛇口から抜けてるとか。
それなら問題ないような。
もしそのデザインが人気になったとして、「元ネタはこの黒猫なんです」と明かしたところで「パクリ」の誹りは受けないはず。
元の作者も「まさかあれの元ネタが自分のものだったとは」となるのでは。
許される「元ネタ」か許されない「コピペ」かの線引きはそのようなものかと思います。
で、やはり↓これはアウトではと・・・。

 

 

 

 

 

 

このNo.25はサントリーが取り下げたトートバッグ8種の中には入ってませんが、実在する商品の販売妨害につながる恐れがあるので、実は最もヤバいものかもしれません。
元ネタの作者に使用料を払うなど検討されてもよいのではという気がします。
デザイナーのオリジナルかどうかは関係なく、結果的にコンセプトが同じですから。

オリンピックエンブレムに端を発する騒動で驚いたのはネット民の元ネタ発見力。
テクノロジーの進歩で、コピペ、元ネタがこんなに簡単に見つかるようになったのだなあと。
「わからないだろう」「大丈夫だろう」といった甘い考えではもうやっていけなくなりました。

ただ、コピペされることで元ネタ権利者がトクをするケースも多いのです。
これが権利関係の問題をさらに複雑化しています。
たとえば「刀剣乱舞」というゲームが大ヒットしていますが、その発端は歴女が元キャラをいじった画像をpixivに投稿したことと言われています。
このように元ネタに手を加えることを「二次創作」と呼びますが、今年のコミケでも刀剣乱舞の二次創作本が大量に売られていました。
それがまたブームに輪をかけます。
そしてこれはゲーム、コミック、ラノベ、アニメ、いろんなエンタメコンテンツに共通する広がり方。
つまり、多くのIP(キャラなど知的財産権)保持者にとっては「著作権侵害してもらうことで自分たちも潤う」構造になっているわけです。
だからコミケで数十億のお金が動こうと「その一部は自分たちの権利だ」などといった主張はしないのです。
著作権侵害が非親告罪になると、権利者側も困るというおかしな話になっているんです。

そんな社会ですから、なぜ二次創作は許されてコピペは許されないのか?
ここをちゃんと理解できる若者は少ないでしょう。
若いクリエイターにとってコピペや元ネタ加工は当たり前のことになっているような気がします。

トートバックの騒動については完全にアートディレクターの落ち度であり擁護はできませんが、おそらく若いデザイナーが何の悪気もなくコピペしたのでしょう。
また上記の「刀剣乱舞」でも、使われていたアイコンが第三者が作ったもののコピペだったことが判明、制作会社が謝罪しています。
今後エージェンシーやプロダクションが真っ先に従業員に教えなければいけないのは、権利意識かもしれません。

クリエイティブとは、無から有を生み出すものではなく、元からある何かと何かを結びつけることで新しいコンセプトを生み出すものです。
元ネタなしでやれ、ということは、クリエイティブするな、ということとほぼ同じ。
だから今後も「元ネタ」「モチーフ」という概念は存在し続けるはずですが、これまでにも増して距離感を作らないと、トラブルが続出する悪寒があります。

どこからどこまでがホワイトでどこからがブラックなのか、僕ら経験を積んだプロでもわかりにくい時代になって来ています。
少なくともひとつ、常に気にすべきは、あるコンテンツやデザインを元ネタにするとき、元々の権利者がトクをするのか、損をするのか?
トクをするならばオマージュとして許される可能性はあるが、損をするなら許されない、ということでしょうね。