清原和博と仕事した時の話

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もうずいぶん前、10年以上前になりますが、広告の仕事で清原さんと会ったことが一度だけあります。
それはポッカの缶コーヒーのキャンペーンだったのですけど、当時まだ彼は現役選手で、シーズン中は撮影の時間を取るのが難しいということになり、彼の過去の映像とTVのインタビューで話した台詞などを映画監督の行定さんにうまく編集してもらってTVCMを作りました。
ただ、ラジオCMはさすがに肉声がほしく、そのぐらいなら時間取れるということになったので音声の編集室でお会いしたわけです。

夕方から台詞録りが始まったんですが、彼が着いたとき、トレーニング帰りだったのか、でっかい全身から湯気がもうもうと立ち上がってました。
そんな人間をかつて見たことがなかったのでかなり面食らったんですけど、その時の彼は不機嫌そのもの。
ドカーッとソファに座って、
「で?何したらええねん」。
原稿を渡し、ちょっとこれだけ分量あって長いんですが、と頼むと、それを手に無言で録音ブースの中へ。
で、最初のブロックを読んでくれて、
「清原さん、すごくよかったです。いただきました。OKです」
と言うと、
「え?OKなんですか?」
と聞き返してくるんですね。
「ええ、OKですけど」
「OKってどういうことですか?なんでOKなんですか?」
「いや、なんでって聞かれても…OKじゃダメですか?」
といった不思議なやり取りが。

そこで彼がマイク越しに滔々と話し出したのは、以前、缶チューハイだかなんだかのTVCMを撮ったとき、演技がうまくできなくて何度も何度も撮り直しさせられたこと。
何回やっても監督が納得せずに、時間もかかってすごくイヤな思いをして、「演技ベタ」が自分の中でコンプレックスになってしまってるんだと。
で、僕はこう言いました。
「いやあのね、清原さん役者じゃないでしょ?僕らは清原和博としての言葉が欲しかったんで、多少たどたどしくてもそれも含めて清原さんなわけだから、自然にしゃべってもらったらそれでOKなんですよ。聴き取りにくいとかそういうところがあれば録り直させてもらいますけども」。
そしたら、
「えっ…ホンマですか?いやーなるほどねえ…。そうですかー!!」
と叫んで、それまでの不機嫌が一転、超上機嫌に。
「じゃあ、缶コーヒーはポッカ、お願いします」
「わかりました。缶コーヒーはジョージア。あ、間違えてもーた!」
みたいなかんじで。
今思うと、TVCMの撮影を嫌がったのは時間がない、ということではなかったのかもしれません。

収録終わって編集室から出て来て、そのまま帰るかなと思ったらまたドカーッとソファに座って、よもやま話を延々と語り始めました。
で、いつまで経っても全然席を立つ気配がなく、1時間ぐらいしてからだったか、
「皆さんまだ帰らないんですか…?」
と聞いてくるんですね。
「いや、僕らはこれから、今録ったのを編集しないといけないんで」
と言うと、
「あ、そうですね、そりゃそうですよね、いやーすいません!じゃあ自分お先に失礼しますわー」
と、そそくさと去って行かれました。
おそらく、あまりに気分良くなりすぎて、スタッフにメシでも奢ろうとしてくれてたのだろうと思います。

まあ、その程度の時間を共有しただけで全てがわかるわけはないんですが、「大きな子ども」みたいな人だなあ、という印象を強く受けました。
いろんな意味で純というか。
嫌いになるのが難しい人。
覚せい剤の件についてはもちろん擁護するつもりはないんだけど、彼がピアスしたり、タトゥー彫ったり、というのはその心境がなんだかわかる気もします。
そうやって自分を守ってたのかなあと。
ちなみにTVCMは何タイプか制作したんですが、そのうちの一つで使用した彼のインタビュー台詞はこういうものでした。
「僕が打てなくて、ヤジ飛ばされて、車の中で、泣いてね…」。

ちゃんと更生されて、あの時みたいな、上機嫌な清原さんを僕はまた見たいです。