復興CM。

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クリナップは高級システムキッチンで広く知られているメーカーだ。最近、その新製品「ステンレスエコキャビネット」のTVCM1タイプとWEBムービー3タイプを納品させていただいた。この製品はこれまで百~三百万円ぐらいしていたステンレスキッチンを一気に数十万円の価格で提供しようというコンセプトで開発されたもので、それでいてキャビネットの裏の裏までステンレス製という、まさにクリナップが社運をかけたと言っても言い過ぎではない逸物だ。CMとWEBムービーにはCGのスプーンとフォークがキャラクターとして登場するが、その声をスリムクラブにやってもらっている。一昨日からオンエアが始まって、このリンクで観ることができる。http://cleanup.jp/cleanlady-sp/ 評判は上々のようだ。
このCM、僕にとってはただのCMじゃない。もしかすると日本のみんなにとっても意味のある、いわば「復興CM」なのである。どういうことかと言うと、もともとこのプレゼンの依頼があったのは、1年以上前の、昨年の年明けぐらいになる。企画が固まり、制作に入ろうと思っていたその矢先に3.11が来た。クリナップの工場は福島に集中していて、大きな被害を受けた。津波に巻き込まれ、不幸に見舞われた従業員の方たちもいらっしゃった。製造機能が止まり、納品が全くできない状況が何ヶ月も続いた。当然、TVCMなどできるわけない。現場では他社製品を紹介したり、ショールームではお客さんを他社のショールームへ案内したりなど、苦しい営業活動を続けていたと聞く。正直なところ、僕は、会社自体このまま傾いていくのではと不安な眼で見ていた。
それが昨年末に思いがけず、「同じ企画でCM制作してほしい」という連絡がエージェンシー経由で来た。クリナップは立ち直って、今から攻めに転じるのだと。それで震災前に提案のあったCM企画を同じスタッフで制作してほしいのだと。これまでいろんな仕事の依頼を受けてきたけども、この時の感慨深さというのは、ちょっと簡単に言葉にできない。日本の製造業が災禍から雄々しく立ち上がるのを間近に見せていただいた気がした。
僕が初めてクリナップのお仕事をさせていただいたのは5年ほど前。システムバスのCMとショールーム用のムービーを企画制作した。スタッフのがんばりもあってかなり好評で、バスの売り上げもずいぶんと伸びたようだ。その頃ちょうど僕は自宅を建てている最中だったので、システムバスとシステムキッチンをクリナップから安く売ってもらうことにした。「アクリア」というシステムバスはまだ発売前だったから僕が顧客第一号ということになる。システムキッチンは思い切って「S.S.」という最高級ステンレスにした。その最高級キッチンで日々どんな料理が作られているかは、あまりクリナップの人に聞かせたくない。どちらも使っていて感じるのは「誠実さ」。ユーザー視点で細かくいろんなことが考えられている。クリナップの本社は西日暮里の住宅街の中にある。町工場として創業してからそこを動かない。社員を大切にする会社で、身体障害者の雇用に特化した子会社も創設している。初めてプレゼンテーションルームに入った時、社長の訓示が眼に入ってきた。「飲酒運転は身を滅ぼす。」と達筆で書かれてあった。