デジタルは「プレイヤー」に語らせてほしい

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さっき、あるセミナーの録画を観て腰が抜けるほど驚いた、というか呆れました。
「デジタル時代のブランディング」というテーマのもので、それは現在の自分の仕事の中核でもありますから、大いに興味を持って観たのですが、デジタルの「デ」の字も語られず。
TVCMに頼らなくてもヒットした商品はある、とか、そもそもブランディングってこういうことじゃないか、といった話はされていたのだけど、聴衆が興味を持っているのはデジタルメディアを使って具体的にどうブランディングするのかというところのはず。
そこが60分の間、一言もないのですよ。

なんでそんなことになるかというと、講師がわからないから、やったことがないからでしょう。
じゃあなんでそんな人を講師に招聘するかというと、大学教授とか経営者とかを呼ぶと箔が付くだろうという主催者の思惑があるからでしょう。
高いお金を払って聴講する人たちからすると、お金も無駄、時間も無駄(僕は60分を無駄にしました)で、大迷惑です。
そのセミナーは拍手もまばらで、もし僕がその場にいたら「くそっ、生卵を持ってくるべきだったッ!」と歯がみしたかもしれない。

そういうこと以上に、こういうセミナー、つまりデジタル広告をやったことのない人たちのセミナーや講演には大きな弊害を感じます。
デジタルシフトをどんどん机上の空論、画餅にしてしまっているということです。
エージェンシーではいまだにクリエイティブ職がいちばんエラいというムードがあります。
自分の創りたいものを創る、後は知らん、という人に対して周囲は何も言えない、という現状があります。
そういうクリエイターがTVCMを1日かけて1本創る、Webのことなんかどうでもいい、という仕事をしたときにWebはどうなるかというと、プロダクションなどに「Webコンテンツ作ってほしい。でももう予算ないから100万で何とか」といった発注が行くわけですよ。
極端に言えば1千万円必要なものを100万円でなんとか、みたいなやり方が蔓延しているのが今の実態なんです。
つまり、広告コミュニケーションの効率化のためにデジタルシフトを進めましょう、という大義名分の元、誰かが泣いている、無理しているのを「効率化」にすり替えているのが広告業界の一つの真実でもあるのです。
そのデジタルシフトのウソをどのようにホントにするのか、それが業界の喫緊の課題であると僕は認識しています。

僕の場合、たとえば運用コンサルと打ち合わせして、最適化のためにコンテンツは6バリエーションほしいという話になったとして。
実際それを作るとなると撮影に2日かかる。
それは予算に見合わない。
3バリエーションなら1日でできそう。
じゃあこういう3バリエーションならどうか、みたいなやり取りを繰り返して、クライアントに逆提案するといったやり方をしていますが、そんなこと、現場経験のない人には想像もつかないでしょう?
僕は僕のやり方で、広告デジタル化による効率化が非効率化のパラドックスに陥らないよう試行錯誤しています。
そして、他に「自分はこういうやり方をしている」というお話があったらぜひぜひ傾聴したいです。

デジタル化の大号令で、今、現場はホント大変ですよ。
僕も、スタッフに無理させてるなーといつも思います。
自分自身もしんどい。
TV用とWeb用コンテンツをいっぺんに作る、のが僕の基本的なやり方なので、撮影も編集も濃密になり長くなります。
正直、もう現場なんてやめちゃって、大学で教えるとか、本書いてセミナーばかりするとか、ラクな道もあるんじゃないかと毎日思います。
でもそれはジレンマなんですよね。
「プレイヤー」じゃないと、デジタル広告の効率化については語れないと思うから。

デジタルは理論理屈のお勉強が大事、というイメージを持つ人はとても多いように思います。
でも、デジタルほど現場が大事なものもないです。
プレゼンなどクライアントのエラい人がいるときだけ顔を出して、撮影や編集現場は下の人に丸投げ、というCDは多いと聞きます。
マス広告の時代はそれでもCDとしてうまく立ち回れたかもしれませんが、デジタル時代はそうはいきません。
僕もこの歳になって、どこまで体力が持つんかいなと、己との闘いになって来ております。