「言葉狩り翻訳」はやめてほしい

Share Button

アメリカの歴史モノTVドラマが好きだ。最近は「Game of thrones」を録画して観ている。これは架空の世界の話ではあるが中世のイギリスが時代設定の元になっている。
僕がアメリカ歴史モノドラマが好きな理由は、歴史に忠実であろうとする姿勢だ。風俗なども過剰とも言えるぐらい忠実に描いている。奴隷もいれば差別もあるし、人権なんか概念すらない。だってそういう時代だったのだから。その、現代人から見た背徳的な描写がゾクゾク来るわけだ。
ところがそこに水を差すのが日本語翻訳である。

たとえば「Game of thrones」は王国同士の争いと王国内部の王位争いを描いているのだが、「血縁」で悩む登場人物が出て来る。彼は周囲から「Bastard」と嘲られる。日本語翻訳ではこれは「落とし子」となっている。「おい、落とし子!」「おまえはただの落とし子だ」などというセリフが頻出するが、意味不明である。ここは「おまえはただの妾腹だ」とすべきだろう。
また重要な登場人物で「Half-man」と呼ばれる男がいる。これは日本語翻訳では「半人前」となる。「あの半人前め!」などというセリフが頻出するがこれもわけがわからない。「あの小人野郎め!」と訳すのが正しい。彼は身長が常人の半分なのである。
もちろんこんな訳になっている理由は想像できる。差別用語だからだ。しかし、中世の騎士が、(妾って差別用語だったっけ?じゃあちょっと別の言い方にしないと…おい、落とし子!)などと考えるだろうか。

「風立ちぬ」の登場人物が煙草吸いすぎだ、と日本禁煙協会からイチャモンがついた。禁煙協会の立場としてひとこと言いたくなるのはわかるが、世論がジブリ側に立ったことに僕はホッとした。あの時代はみんな煙草を吸っていた。それを描かないのは歴史の捏造をするようなものだ。
アメリカTVドラマで言うと、1950年代の広告業界を描いた「Mad men」では、画面中に煙幕が垂れ込めるほどに男も女もあらゆる登場人物が煙草を間断なく吸う。だってそういう時代だったのだから。喫煙による害が集団訴訟になる国であの表現が許されているのは、歴史を曲げる害の方が大きいことを常識として共有しているからではないか。

海外でも日本でも、描写の忠実性は許されるようだ。
しかし日本では言葉だけが曲げられる。
なぜだ。
一昔前、コンパクトカメラは一般に「バカチョンカメラ」と呼ばれていた。
バカでもチョン(朝鮮人)でも使えるという意味で、もちろん現在では死語になっている。しかし当時は普通に「これバカチョンだから、シャッター押すだけなんでー」と、みんな平気で口に出していた。もしその時代の風俗を映像化しようとしたら、その言葉は使うべきか否か。
僕は使うべきと思う。「これカンタンだから、シャッター押すだけなんでー」というセリフに代えたとたん、そこで歴史が捏造される。やったことをなかったことにしているのだから。事実として僕らはそういう言葉を深い意味を考えることもなく、平気で口にしていたのだ。日本の侵略行為はありませんでしたと教科書に書くのとどれほど違うだろう。

「言葉狩り翻訳」は正しい歴史認識の害になる。
しかも僕の楽しみが削られる。
やめてほしい。
カムイ伝の「おめえ、めくらだか?」のセリフを「おめえ、目の不自由な人だか?」に書き換えるようなことはもうやめてほしいのだ。
江戸時代の非人が(めくらは確か放送禁止用語だか?ならもっとマイルドな言い方にすんべ)などと考えるわけないではないか。