「シブシブ」の問題

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うちの長男はいま小六で、中学受験の真っ最中。志望校は「渋谷教育学園渋谷中学校」通称「シブシブ」だ。そこを志望校に選んだ理由は二つ。一つは家から歩いて通えるから。僕は子供を通勤電車に乗せるのがイヤなのだ。もう一つは海外との交流に力を入れていて、留学制度が充実しているから。僕は子供たちをいつでも海外に出られるようにさせておきたい。そして、息子もこの学校を気に入った。
小六になってから受験勉強を始めたので、当初は模試を受けさせると合格率20%程度。「今からじゃ無理ですね」と言う塾もあった。僕は何事も集中力だと思っているので、今からでもイケルイケルと言っていたらだんだん成績が上がってきて、半年で70%ぐらいまで来た。算数や国語はほぼ言うことなしの点数を取っているようだ。問題は理科社会。特に社会の出来が悪い。塾の先生が言うには、通常は理科社会が先に上がって算数国語で伸び悩むんだがお子さんは逆だと。かなり珍しいタイプのようだ。社会なんて覚えればいいわけだから、勉強すればそれだけ伸びるはずなのに。
で、僕は自分で社会の勉強を見てやろうと思い、「シブシブ」の過去試験問題集を買いに行かせた。そして社会の問題を見て驚いた。これは僕の受験時代の社会とはまるで違う。感心したのだ。昔の社会の問題は、いわばブツ切りだった。中世の問題なら中世の内容を問うものだし、アフリカの問題ならアフリカについて答えればよかった。「シブシブ」の問題は、過去から現在、日本から世界へと、立体的に繋がっている。たとえば沖縄の問題。沖縄は昔から地理的に交易上有利で、琉球と呼ばれていた時代は中国と日本の両国と交流していた。といった説明がある。まずそこで歴史問題として、琉球王朝の王城の名称や、江戸時代に琉球を実質支配していた藩の名称を問う(首里城はいいとしても薩摩藩は大人でもなかなか答えられないと思うが)。次に、戦争を経て米国の占領下にあった時代の説明があり、時事問題として普天間基地の場所を問う。そしてなんと、全日空の那覇空港ハブ構想の説明にいく。那覇をハブ化することで、日本の空港とアジア各国の空港との貨物輸送時間が短縮されるという説明図がある。さらに10年前と現在の、日本と各国の貿易額のグラフがある。それらの図を見ながら、全日空のこの構想が日本の農業にどんな影響を与えるか、「高級」「成長」という言葉を使って述べよ、という問いが来る。年々アジア各国との貿易額が拡大する中で日本の高級生鮮農作物をスピーディに輸出することができれば農業の成長に寄与する可能性がある、といったことを書けばいいのだろう。小六にはちょっと厳しすぎるかもしれない。日本の農業が抱えている問題点と、アジアで日本の農作物が高級品として珍重されていることまで知らなければなかなか答えられないはずだ。しかし、この世の中を一本の軸で繋いで考える、という姿勢は実にいい。それこそが正しい「社会」教育だと感じる。
いつでも情報が引き出せる情報社会では、知識を蓄えておく能力はもう役に立たない。それよりも引き出した情報を繋げる能力、繋いだものに新しい価値を見いだす能力が要求される。教育の現場もちゃんとわかってるようだ。自分の子供を送り込もうとしている学校が時代と併走していることに安堵した。学校見学でいくつかの学校を訪ね何人かの先生と会って話した印象では、私立公立問わず、意識の高い人は高い。公立でプレゼンテーション力養成をカリキュラムに入れている学校もある。実践的になって来ている。少子化が幸いして(?)、先生も二人体制で授業をしたりする。メインの先生が教壇に立ち、サブの先生が理解できてなさそうな子供の席に行って教えたりしてる。僕の時代では考えられない。今の子供たちは僕らの頃よりよほど進んだ教育を受けているんじゃないだろうか。そう思うと次の世代が頼もしく見えてくる。
ところで広告学校の生徒たちに、「シブシブ」の社会の問題をいくつか出してみた。ほぼ誰一人、ほぼ何一つ、答えられなかった。頼むよ君たち…。そんなに世の中のことに興味なくてどうすんの。コピーや企画は世の中から見つけてくるものなんだよ。昔のコピー年鑑をいくらほじくったって、そこには見つからないのだぞ。