コピーを書く態度

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np.無料広告学校の第五期が始まった。今期は過去の講義録を読み、その厳しさをわかった上で応募して来ている人たちばかりだから例年より質が高い気がする。しかし広告の基本的なストラテジーを考えさせてみると、詳しく解説していたにもかかわらず、ほとんどが腰砕け状態。うちの事務所の新人にしてもほぼ例外なくそうだけど、巷のコピー塾や広告学校出身でちょっと広告の匂いをかいだ人ほど、広告について間違った認識を持っている。商品USPやターゲットインサイトという言葉すら知らない、ぐらいではもう驚かなくなったが、広告表現に臨む姿勢についても変な理解をしている。ゴルフを始める時はちゃんとしたプロに習えという話を聞いた。いいかげんな人に教わると、まちがった癖がついてしまって後から大変なことになると。それに近い印象がある。さらにどうしようもないのは、就職してから上司の指示を馬鹿にする人。あるエージェンシーのコピーライターが嘆いてたけど、「あなたはコピーを見る目がない。僕のコピーは○○学校で○○さんにほめられたんですからね」と啖呵を切ってやめていった部下がいたそうだ。ほんとうに愚かとしか言いようがない。まあそういう勘違いな人は置いといて。ここはひとつ、np.広告学校の受講生、np.の新人、実践的な広告クリエイティブ力をちゃんと身につけたいと思っている若者たちのために、広告コピーや企画を考える時にどういう態度であるべきかを書いてみようと思う。
・商品コピーを書け。
と言うと、は?そんなんあたりまえじゃないか、と思うかもしれない。しかし君たちのほとんどは商品コピーが書けない。仮にドコモXperiaのコピーを書く、という仕事があったとしよう。僕が若いコピーライターにそういう仕事を振ったとすると、だいたいは「ケータイ」、良くて「スマホ」のコピーを書いてくる。「ケータイ」「スマホ」は商品じゃない。商品「カテゴリー」だ。巷のコピー塾では「ケータイのコピーを書け」などといった課題を出すようだが、実践ではカテゴリーのコピーを書く仕事などない。そんなふうに教わり、それがコピーというものと誤解している人たちは商品コピーがさっぱり書けない。何をどう考えればいいかわからず、ぽかーんなのである。可哀想でもある。僕が博報堂に入社してすぐにやらされた仕事の一つは、カタログだった。オリンパスのピカソというコンパクトカメラのシリーズがあって、そのカタログのコピーを全部書いた。機能を全部洗い出して、どれが重要か順位を付けて、それぞれの機能がわかりやすく楽しく伝わるようにボディコピーを書く。今、こういう仕事はクリエイティブがやらなくなった。だから商品をきちんと見るということをコピーライターができなくなっている。XperiaもiPhoneも同じ「スマホ」でしょ、オリンパスもニコンも同じ「カメラ」でしょ、と言った態度はクライアントの想いを無下にしているにも等しい。カテゴリーではなく商品に敬意を払い、その魅力をきちんとつかむことが第一歩だ。
・先に競合商品を調べろ。
USP(Unique Selling Proposition)を考えるように、と言うと、単にその商品の「特徴」を書いてくる人が多い。たとえばXperiaのUSPは、「通話ができること」や「メールできること」ではない。USPはその商品の「売りポイント」であるとよく言われるが、「Unique」の意味はあくまで競合商品に対しての独自性ということだ。だから、その商品のUSPを考える前にやるべきことは、「競合商品の魅力を調べる」ことだ。これがわかっていないコピーライターも実に多い。iPhoneを競合と考えるならば、まずその魅力を調べる。いったいどのポイントで売れているのか。そしてそれに比べてどういう優位性があるのかを考えながら、Xperiaの機能を理解する。そういう順番だ。また、その競合が強いのか弱いのか、今の勢力図を把握する。そして競合は同じカテゴリーのものだけとは限らない。意外なものが敵になっている可能性もあるだろう。今、真の敵と考えるべきはいったい何なのか。それによってUSPも変わってくる。まず競合の魅力や勢力図を把握しておくことによって、自分が扱っている商品の本当の価値が見えてくるわけだ。
・ターゲットになりきる。
たとえばアンチエイジング化粧品のコピーを書いたとして、20代女性に「おもしろいじゃん」と褒められても、50代女性から「よくわからない」と言われるのではそれは全く無価値だ。あたりまえのことだけど、そのあたりまえが理解できないコピーライターも多い。さっきUSPの話をしたけども、その優位性は、あるターゲットが自分にとって価値があると感じてくれなければ成立しない。コピーを書く時に、自分が面白い、あるいはコピー塾の先生に面白いと言ってもらえそう、などといった基準は一切捨てることだ。50代女性に向けたコピーを書くならば、今のその年代の女性がどういうことを感じ、考えているのか、そこにまず浸ってみる。ネットの書き込みを読んでみる、知り合いにいるのならば直接話してみる。僕は座談会を設けてもらったりすることもある。そして、その人になりきってみる。役者のように。優れた役者はその役に人格ごとなりきると言う。その役に没頭している最中は日常の人格も変わったりするらしい。沢尻エリカはへルタースケルターでおかしくなっちゃったそうだが、頷ける話だ。コピーライターも、ターゲットになりきってコピーを書いてみる。その人が朝、旦那を送り出した後、さてスーパーのお買い得は何かなとか思いながら新聞を開いてチラシを取り出す。パラパラめくっていくと、そこに化粧品のコピーがある。なぜかふと目が止まる。新しいアンチエイジングか。今まで使ってたのはいまいちだったけど、これは試す価値があるかも、と一瞬で感じる。そういう状景を頭の中に思い描け。そして、そのためにコピーはどうあればいいかという基準を持つことだ。
・すぐカタチにしない。
人は「わからない」という状況に耐えられない。江戸時代、地震がなぜ起こるのかわからなかった。誰かが「でっかいナマズが地面の下で暴れてるんだ」と言い出して、それにちがいない、という話になった。人はそんなふうに、わからないことを何でもいいからすぐカタチにしたがる。苦しいからだ。そしていったんカタチになってしまうと、それを否定したり壊すのは難しい。すぐにコピーを書く、すぐにCMコンテを書く、そしてこれでいいやと安心している。そんなことではプロとしてお金をもらう資格がない。わからない苦しさに果敢に立ち向かっていくことに広告クリエイターとしての価値と矜持がある。できる限り頭の中でもやもやさせて、なるべく決めないで、最後のぎりぎりにカタチにするのがいい。コピーの場合、理解あるクライアントならCMなら仮編集、刷り物なら入稿まで待ってくれるだろう。僕の場合プレイステーションがそうだった。それに、いいアイデアを生み出すのは意識ではなく無意識だ。だから、基本的には2回考えること。最初に考えて、あと数日間はちょっと気にしながら放っておく。そうすると意識の奥でアイデアが醸成される。もう一度考えると、自分でも予想していなかった斬新なアイデアが出て来たりする。
・机で考えない。
机から全く動かずその場だけで考えるコピーライターがいるが、話にならない。僕の事務所ではあえてコピーライターに机を与えていない。頭でいくらストラテ ジーや表現を考えても、それは小手先、無力な空理空論だ。まず売り場に行くこと。コンビニ商品なら棚落ちしているのか、何列もフェースを取っているのかで その店のプッシュ度がわかる。デバイスな ら量販の売り場に行くと何が売れているのか一目瞭然だ。新発売前でも売り場に行く意味はある。その棚に商品が入ったらどう見えるかがイメージできるから だ。店員にその商品のことを聞いてみるのもいいだろう。そこには思ってもいなかった発見があったりする。そして、飲料なら飲んでみる、デバイスなら使って みる、クルマなら試乗してみる。味、手触り、重量感、時代の後押し感、そういったものを自分の体内に取り入れないといけない。そして、みんながいろんな商 品を使っている街の空気の中でコピーを考えるのだ。クリエイティブの最後は直感がモノを言う。脳内シミュレーションだけではその直感は確信に至らず妄想や ご都合にとどまってしまう。
・クライアントに敬意を。
クライアントのオリエンが終わるや「こんなの売れないですよねー」と、小馬鹿にしたような言い方をする人がいる。君に何がわかる?「自分が広告のことを教えてあげよう」という態度でクライアントに臨む若造。何様だ。「教えてください」だろ。クライアントはその商品について僕らより何倍も知見がある。その専門性において僕らは足下にも及ばないのだ。彼らの辿り着いた結論がそのオリエンならば、敬意を持って受け取らないといけない。それは言われた通りにやる、ということじゃない。売れれば何でもいいという態度でもいけない。企業努力を無にするなということ。オリエンに対して、予想外の案を提出するというのは構わないと思う。でもそれは、彼らの努力が生きるものでないといけない。そして僕らはクライアントに対して、スペシャリストでなくゼネラリストであるべきだ。いまの社会について幅広い知識や問題意識を持っていること。ユニクロの柳井さんは「CDは今の時代のことを教えてくれればいい」とおっしゃったとか。クライアントの持っていない、違う視点を提供してあげるのが僕らの大事な役割の一つだ。