あるレジ打ちの女性とタクシーの運ちゃん

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Facebookで紹介されていた、「あるレジ打ちの女性」の話に感銘を受けた。 まずは↓このリンク先の話を読んでほしい。
http://1minute.raindrop.jp/?p=5100
何年か前、あるタクシーに乗った。「武蔵小山」と行き先を告げると、初老の運転手は「武蔵小山ですか。今なら、かむろ坂通りは○○(花の名前)がきれいでしょうねえ」と言った。聞いたこともない花の名前を言われて、僕は少し面食らった。「そうなんですか。僕は花とか、そういうの全然わからなくて」。「いま走ってるこの通りの街路樹、あれは○○と言うんですよ。もう少ししたら花が咲きます」。「へえ。街路樹っていろんな種類があるんですか?」。「そりゃもう、東京はね、通りによっていろんな木が植わってるんですよ」と言って運ちゃんは笑った。「あのー、運転手さん、もしかして東京中の街路樹がわかるんですか?」。「わかりますよ」。「本当に!?なんでそういうの覚える気になったんですか」。「えっ、だって一日中東京を走ってたら、いろんな街路樹を見ながら走るわけだし、名前を知ってる方が楽しいじゃないですか」。僕はずいぶん感動した。その日はすごくいい気分でベッドに入ることができて、もし僕がもっと郊外に住んでいたらいつも帰宅に利用するんだがなあ、と思った。 当時僕はキリン生茶のプレゼンを抱えていて、よしこのテーマでいこうと決めた。寝る前に思い出すと、ちょっとうれしくなる、そんな話でいこうと。それで、松嶋菜々子がフェリーに手を振ると乗客がみんな振り返してくれる、とか、転がってきたボールを投げ返したら高校球児が気持ちよくお礼を言ってくる、とか、そんなCMシリーズができた。それは余談。
誰しも日常の生活の中で楽しみを見つけようとする。同じように、仕事の中でも、自分なりの楽しさを発見していく姿勢は必須だと思う。それが仕事への愛着を生み出し、生産性を高め、自分の価値を上げることになる。 昨今はネット上で、若い頃から企業をやめて独立するのが素晴らしい、なんて言う人が多い。嫌な仕事をする必要はない、企業の歯車にならないで、自己実現を目指しなさいと。僕は「いい大人が何をバカ言ってんだ」と思う。「地獄への道は善意で舗装されている」というヨーロッパのことわざを思い出す。目の前にある仕事をどのように自分の楽しみに変換するか、その努力もできない人にいったい何ができると言うのか。
そもそも「自己実現」って何なのか。
企業人であれ、独立人であれ、誰かに何かを提供し、その対価を得て経済活動をすることに違いはない。相手が何を求めているのか、相手にとって自分に価値があるのかないのか、そういう視点に立たないで、まず自分が気持ちいいのが自己実現、みたいに思ってる人は乞食になるしかない。仕事というものがわかってないのだから。いやむしろ乞食になってほしい。コンビニに行けば廃棄食料いっぱいあるし。まっとうに働いてる人の税金をあてにすんなよってこと。
人間はつながることで生存して来た。今でも皆その本能を持っている。組織は自然発生的なものなんだ。犬が家庭になじむのは同じ本能を持っているからだ。むしろ一人になる方が人にとって不自然と言える。自殺とか、異常犯罪を起こす人はほとんどが社会からの疎外を感じている。コピーライターはTCCに群がる。誰もが群がりたがる。一人になるのは恐ろしいことだ。その恐怖を克服することが自己実現ってことじゃない。ここを勘違いしてはいけない。人とのつながりの中で自分の価値を認めてもらうことが自己実現なんだよ。企業の中で自分の存在価値が出てくれば、それは素晴らしい自己実現なんだ。
僕は独立を否定してるわけじゃない。自分自身独立してるし。レジ打ちの女性やタクシーの運ちゃんも、そのうち転職するかもしれない。でも彼らは悩むだろう。せっかく楽しさがわかってきた、せっかく自分の価値が認められてきた今の仕事を捨てるべきかどうかと。それでも本当に自分がやりたいことがあるんだ!と決断するのであれば、その独立、転職は成功すると思う。