AIクリエイティブなら20年前にやった

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最近、AIを広告クリエイティブに活用しようという流れが起きていて、それについて語られる記事もよく見かけるようになりました。
正直を言わせていただくと、時々イラッと来ることがあります。
その理由は、AIクリエイティブを語る人のほとんどがクリエイティブ職の人ではないからです。

デジタル系の人はどうもデジタル万能神に仕える信者みたいなところがあって、他職種を舐めてるフシがある気がします。
「これ、クリエイティブの業務に使えるんじゃないですかね」と言われれば僕も素直に「ほほう、それは面白いかもしれませんね」と素直に受け取れるのですが。
クリエイティブをやったこともない人に、わかったように(なぜだか皆申し合わせたかのように腕組みをしながら)「これからはAIがクリエイティブをやる時代」なんて言われるとあんたがクリエイティブの何を知ってるんだよ、という反発心が生まれてしまうわけです。
そのあたり、まだまだ自分も小っちぇえところがあるのですが…。

逆説的な言い方に聞こえるかもしれませんが、AIがやっていることはクリエイティブそのものです。
クリエイティブとは、これまでになかった組合せを見つけることなので。
「0から1を生み出すのがクリエイティブ」などと言われることありますが、これは全くの見当違いです。
この世の森羅万象で、人類が無から有を生み出したことなどあったでしょうか。
新しい、と言われるものの全ては、すでに存在していたものの、誰も思いつかなかった組合せです。
AIが囲碁で人には気がつかなかった新しい手を生み出すのも、人には気がつかなかった新しいレシピを生み出すのも、組合せのトライ&エラーを高速でやった結果です。

僕は20年前にそのことに気づき、Delphiというプログラム言語で簡単なPCアプリケーションを作りました。
それは、キャッチコピー作成の支援アプリで、コピーを前の句と後の句に分けて、クリックするたびにランダムな組合せを次々に生み出すというものでした。
ほとんどのコピーライターは、たとえば飲料のコピーを書くなら過去の飲料コピーを参考に、不動産のコピーを書くなら過去の不動産コピーを参考に書くと思います。
間違いではないですが、それだけでは足りません。
そこには新しいインプットがないからです。
全く関係ないところから思いがけない言葉を持ってくるとき、化学反応が起きるのです。
こういった、クリエイティブやって来た人間としてわかりきったことを20年も経ってから他業種の人に腕組みで語られるとイラッと来るという次第です。

そもそも、皆が使っている「AI」という言い方じたい正しくありません。
「AI技術」とでも呼ぶべきでしょう。
なぜなら、いま使われているものは人工知能を研究する過程で出て来た技術を流用しているのであって、AIそのものではないからです。
「放射性物質」と呼ぶべきところを「放射能」と呼んでいるのに近いものを感じます。
本当の専門家は放射性物質を放射能などとは表現しません。
もっと正確に言えば、少なくとも現状では、皆が「AI」と呼んでいるものは「RPA(ロボット支援)」ではないでしょうか。

広告業界は何でもふわっとした気分で済ませてしまいがちです。
たとえば「ブランディング」について語れる人はほとんどいませんよね。
ブランドCMとイメージCMの差もわかっていない。
自分の頭で考えないで浅い受け売りをクライアントに伝えて「ちょっと何言ってるかわからない」サンドイッチマン状態にして、今度は自分がクライアントから「ちょっと何言ってるかわからない」オーダーをされるブーメラン現象に陥ったりして。
「デジタル広告」なんて平気で言いますが、「デジタル=Web」ではないですからね?
全く次元の異なる言葉です。
それでヤヤコシイことが起きていたりもしますので、もっと用語の定義をハッキリさせてから使おうよ、と思います。
AIクリエイティブも、ターゲットに観られやすいものを自動生成するとか言いますが、それはどちらかといえば効果測定の話じゃないですか。
運用の自動化にコンテンツも自動で乗せるということであって、それをひっくるめてクリエイティブと呼ぶとわけがわからなくなりますよね。
それでまた「ちょっと何言ってるかわからない」ブーメラン現象に振り回される様子が想像できます。

20年前にせっかく作ったそのアプリですが、すぐ使わなくなりました。
経験を積むうちに、それに頼るよりも自分の直感の方が速くて優秀なものを作れるようになり、つまりは効率が悪くなったからです。
思うに、クリエイティブを自動生成しても、スコアが最大化されるように出し分ける、といったことに使っていては全てが同じ解を目指すことになります。
つまりAIの使い方として自己矛盾を孕んでいますので、いま考えられている使い方では早晩行き詰まることになる気がします。
これはクリエイティブの仕事をやっていた自分ならではの肌感覚です。

広告業界は、常に「OR」思考です。
「TV OR Web」のように。
新しい何かが出て来ると、「取り込もう」ではなくて、自分の茶碗を取り上げるものとしてまずは敵視するんです。
僕は広告クリエイターとして新種と言えるかもしれませんが、そうなると「取り込もう」ではなく意味なく警戒したり敵視したりする人が増えてくるので、ある意味では以前より仕事がしにくくなりました。
彼らからすると古臭いやり方に閉じこもってクリエイティブしている人たちの方が安心できるのでしょう。
でもクリエイティブの人間が「自分たち OR AI」発想でAIを敵視していると他業種の人たちに変なことにされてしまいますよ。
AIをクリエイティブに取り込むならそれはクリエイティブ職によるものであるべきだし、クリエイティブの領域のものはデジタルだって何だってもっとクリエイティブ従事者が語らなければいけないと思います。
自分たちがやることだし、他業種の人はどんなツールを持ったってクリエイティブできるわけがないですから。