TVとWEBのロミジュリ現象

Share Button

「家政婦のミタ」の視聴率が40%越えをしたことで、「これはビューティフルライフ以来じゃないか?」と言う人がいた。調べてみると、確かに「ビューティフルライフ」の最高視聴率は最終回の41.3%で民放テレビドラマ視聴率の歴代2位。1位は「積木くずし」の最終回で45.3%だ。それで、「TVもまだまだ終わってないぞ」という話になるのだが、ちょっと待ってくれ。「終わってない」だって?それどころか、僕にはTVは昔と比べてますます勢いがあるように感じられる。「家政婦のミタ」の実質的な視聴率は40%どころか、50%、いや60%かも知れない。
若い人で、部屋の中にTVを置くスペースがない、TVを買う金がない、という人がいる。そういう人に「TVは観ないのか」と聞くと、「観てる」と答えたりする。パソコンで観るのだと。TVと言うとほとんどの人は今だに「TV受像器」と一体化してイメージしていると思う。逆にTV受像器以外の何かで観るTV視聴は正当な方法じゃない、海賊版でゲームしたりCD-Rにコピーした音楽を聴くような、マイナーで邪道なものとして。そんなこたあない!むしろ、TV受像器以外の機器で視聴する傾向はTV局にとっても僕らのような関係者にとってもグッドニュースなのだ。TV番組は、別にTV受像器で観てくれなくったっていい。どんな視聴の仕方をしようと、CMさえ観てくれりゃあビジネスになるのだ。そこが他のコンテンツとは全く違うところだ。今は、ケータイでもパソコンでもタブレットでも、あらゆるもので、いつでもどんな場所でもTV番組を観ることができる。TV受像器じゃないと観られなかった昔と比べて、TV番組は遙かに生活時間の全般に浸透していると言えるだろう。そして、それらは視聴率にはカウントされていないのだ!
録画視聴も広がっている。僕自身に関して言うと昔と比べて格段にTVを観るようになった。そのきっかけはSONYの「クリップオン」だ。「クリップオン」は世界初のハードディスクTVレコーダーで、録画したものを外に持ち出す術がないのと高価だったために普及しなかったが、ビデオテープと違いワンクリック感覚で気軽に録画できたので、僕は気になる番組をばんばん録画することで、TVを圧倒的に観るようになった。「クリップオン」以来、TVは「メール」化し始めた。「電話」は、発信者と受信者が同じ時間を共有しないと成り立たない。そういう意味で、TVとは「電話」的なものだった。番組の放送時間には、視聴者は必ずTVの前にいなければいけなかった。「メール」は、受信者が発信者の時間に縛られないという意味でコミュニケーションの革新だったが、ハードディスクレコーダーがTVを「メール」化したわけだ。僕らのように就労時間が不規則な人種にとってメールは非常に便利なツールだが、TVについても同じことが言える。僕はTVをほぼ録画でしか観ない。そして、録画視聴も視聴率にはカウントされない。ちなみにこれからはもはや録画もなく、ネットがTV番組のアーカイブ的役割を果たすようになると思う。見逃した番組をYouTubeで観る人はたくさんいる。著作権についての法整備が整っていないのでこのあたりは現状グレーゾーンとなっているが、クリアになってくればオンデマンドのメニューもより拡充するだろう。
TV番組は今や、身近なあらゆるデバイスで観られたり、しかも、時間に縛られないメール的スタイルで観られたり、という時代になっているが、TV受像器で観られないものは相変わらず視聴率としてカウントされない。視聴率の数字だけを見てTVはもう終わったと結論づける人がいるけど、そういう人はTV視聴スタイルの進化や広がりを考慮していない。ここのところTV局のスポットはずっと満杯状態で、枠が余って困っているなどという話は聞かない。実感値ではCM監督たちは以前より忙しく、スケジュールを合わせるのが大変だ。TVを観る人が激減していたらそんなことにはならないと思う。
ネットが普及進化することでTVが衰退する、という思考も間違っていると僕は思う。「家政婦のミタ」の高視聴率に大きく貢献したのはむしろネットだろう。TVに限らず、音楽でも映画でも何でも、ネット社会が成熟するにつれコンテンツの勝ち負けの差がはっきり目立つようになって来た。ネットの評判で動く人がどんどん増えてきているってことだ。ネット上に飛び交う言葉に刺激を受けてTVのスイッチを入れる人はものすごくたくさんいるはずで、そういう人たちがTVの視聴率を押し上げている気がする。
また、ネットがTVを楽しくもしている。TVが「メール」化しているように、ネットも「電話」化し始めている。もともとネットにはサーバーの問題があって、多人数の同時アクセスに弱かった。「メール」的な使い方しかできなかった。しかしサーバーのコストが下がり能力は上がり、USTREAMのようなネット放送まで始まった。ツイッターのように多人数同時アクセスを前提としたメディアも現れた。こうしたメディアは「電話」的TV番組と相性がいい。つまりワールドカップやオリンピックなど、みんなが同じ時間を共有するのが楽しいコンテンツだ。なでしこが世界一を決めた時、ツイッターのタイムラインには爆発的な量の言葉があふれた。SONYは番組を観ながらツイッターできるTVを発売したが、目の付け所はいいと思う。中継を観ながらツイートしていると、大応援団の中にいるような一体感を味わえる。これからはタブレットで友達と会話しながら大画面TVで中継を観る、という視聴スタイルが一般化するかも知れない。こう見ていくと、ネットが普及進化するとTV番組が観られなくなる、ではなく、より観られるようになる、という仮説が正しい気がする。
逆に、TVに刺激されてネットを見るというケースだってたくさんある。GoogleやYahoo!の急上昇ワードは、その日か前日にTVで採り上げられたものばかりだ。TV番組で知ったものをネットで調べたり買ったりというスタイルがすでに定着しているから、ネットショッピングの販促はTVのパブリシティが一番効果的だ。
ネットはTVの敵として登場したように語る人が多かったけども、気がつくとこの二人は勝手にハグしてしまっているようじゃないか。心理学用語でロミオとジュリエット現象というものがある。周囲がやいやい反対するほど逆にくっついてしまう心理を指す言葉だが、僕にはTVとネットはロミオとジュリエットの関係にも見える。